![]() |
| ACCUMU Vol.1 1989 |
| 一般教養としての宇宙物理学 |
作花 一志 KAZUYUKI SAKKA
京都大学理学研究科修了/理学博士/天体物理学専攻
現在京都コンピュータ学院白河校長
![]() |
私達の先祖は文明の始まりと共に天体の観測を始め,星の運行より宇宙の法則と人間の運命を知ろうと努めてきた。古代の人々が種を播き穂を取り入れるとき,海を渡り砂漠を旅するとき天文学は彼らに貴重な指針を与えた。夜空に光る星はわずかの惑星・彗星等を除けばすべてお互いに位置を変えぬ恒星で,それは1日1回転する天球に固定されているものと考えられていた。しかし地動説の確立と共に天球は実体を失い,恒星は太陽系とは全く独立な天体であることがわかってきた。恒星もまた不動な天体ではなく長い年月の間にはその動きが認められるはずであるが,それを観測するには人間の歴史はあまりにも短い。現在私達は太陽も含めすべての恒星は個々の運動をしながらも全体としては銀河中心のまわりを回転していることを知っている。恒星の動きは毎秒数十kmというスピードであるが,私達から見て1年間に角度の1秒にも満たない。これは当然恒星が私達の日常感覚からするとあまりにも遠方にあるからである。
この小文では数十光年(約100兆km),数十万年のオーダーの空間的・時間的広がりの世界の中で恒星の太陽に対する運動を調べ,位置・距離・明るさの変化の計算結果を示そう。
恒星とは自ら光る星であるが,エネルギーを四方八方宇宙空間へ放出しているのであるから当然いつかは寿命が尽きてしまう。その寿命は典型的な(大き過ぎもなく小さ過ぎもなく,明る過ぎもなく暗過ぎもなく,全く平凡な)恒星である太陽で約100億年で,質量が大きいほどエネルギーを浪費し短命となり,数百万年で燃え尽きてしまう星もある。星はその晩年,何十倍も膨張し急に明るさを増したり,激しく変光したりするが,通常夜空に輝いている大多数の星は安定な状態にあり,数十万年の間で星の本来の明るさが変わることは考えなくてよい。天体の明るさは等級(mag.)を単位に用い明るさ100倍の違いが5等級の差と定義され,観測より0.01mag.の精度で求められている。
天体の距離には単位として光年(ly)を使う。1lyは光が1年間に進む距離で約1013kmで最も近い恒星(ケンタウルス座α星)で4.3lyである。恒星の距離の測定は地球の公転運動による恒星の見かけの運動を追跡することによって得られるが,200ly以遠の恒星では当然精度は悪くなる。
天体の位置は赤経α,赤緯δで表わされるがこれは,地球の経度,緯度に相当する天球上の座標である。各天体の(α,δ)は望遠鏡発明以前から調べられており,今日では観測できる天体(恒星,惑星,彗星,星雲,星団,銀河……)はすべて各々のカタログに収められている。
![]() |
| 図1 |
視線速度(Rkm/s) 本来の波長からのズレ ―――――――――――― = ―――――――――― 光速(3.0×105km/s) 本来の波長
![]() | ![]() | ![]() |
| 図2 | 図3 | 図4 |
これらの運動の結果,星座の形も変わってゆき,数十万年後には今の夜空とは似ても似つかぬものになってしまう。北斗七星の両端の星は他の5つの星より固有運動が大きく,図5〜図9のように形はどんどん崩れてゆく。そして10万年後には逆向けのひしゃく型になるだろう。そのころの天にはオリオンもさそりもししも見られない。
私達の歴史はまだ数千年でしかなくこの間に恒星が移動した距離は1光年にも満たず,天球上の動きは数度でしかない。しかしネアンデルタール人は私達とは異なった星座を見ていたはずだし,数十万年後人類が生き延びられたら私達の子孫は今と全く違った星の物語を語り合っているだろう。
![]() | ![]() | ![]() |
| 図5 −10万年後の北斗七星 | 図6 −5万年後の北斗七星 | 図7 0万年後の北斗七星 |
![]() | ![]() | |
| 図8 5万年後の北斗七星 | 図9 10万年後の北斗七星 |
![[Image]](../acm/acimg/a1016f.gif)