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| ACCUMU Vol.1 1989 |
スーパーコンピュータとともに
高島 勉 TSUTOMU TAKASHIMA
京都大学理学部卒。京都大学大学院宇宙物理学科修士課程在学中,米国カリフォルニア大学(UCLA)大学院に留学。カリフォルニア大学理学博士号取得(気象学)。その後気象庁気象研究所就職。気象衛星データ処理法の研究実施,現職に至る。その間,カナダ国気象庁,ドイツ国ケルン大学,オーストラリア国CSIRO,米国気象庁,オレゴン大学と衛星に関する共同研究を実施。京都大学理学博士号取得。現在国際大気放射学会委員,気象学会誌編集委員,日本リモートセンシング学会理事及び編集委員。気象庁気象研究所,気象衛星・観測システム研究部第一研究室長。
1.はじめに
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| 気象庁気象研究所 |
気象現象は,わたくし達の日常生活に密着しているため,毎日の天気の移り変わりや気候変動には大きな関心がもたれている。冷夏や暖冬の予測,最近急速に増加している炭酸ガスや火山噴火の影響,又人間活動に伴う森林等の伐採や廃ガス,エーロゾルの増加等の影響で,気候が今後どう変化するのか,このような事を的確に予測するには,地球をとりまく大気全体の変化のしくみを良く理解する必要がある。地球全体の大気の運動は大気大循環と呼ばれ,局地的な変化も全球規模で考えなくてはならない。気象現象の概要は次の通りである。各現象をその規模で分類すると,小規模は水平距離約百mから数kmまでで,個々の積乱雲はこの中に入る。中規模は数十km〜2000kmで,梅雨末期の豪雨や豪雪を伴う擾乱はこの中に入る。総観規模は数千kmで天気現象として観る立場の擾乱規模にあたり,移動性低気圧はこれに属する。又時間的に分類すると,6時間から2日までの気象予測を短期予報,2日〜20日を中期予報,10年を経過する変化を気候変動と呼んでいる。
この30年間のめざましい電子計算機の進歩に伴い,コンピュータを使った数値シミュレーション法で気象の予測をする事が盛んになってきた。この方法とは,まず大気の中での水平,鉛直方向の多数の格子点(〜5万点)を考え,その格子点における気象要素を衛星や地上観測所からのデータに基づき与える。次にその変化を物理法則により順次計算し,その繰り返しにより一定時間後のそれぞれの格子点における気象要素の変化を求め,これにより地球全体の大気の変化を予測するというものである。数値シミュレーションでは,まず大気のモデルを設定するが,モデルは精度を高めるためには出来るだけ本来の地球や大気に近いものが良く,今のモデルでは,実際の形に近い海陸分布,雪氷分布,大気中の炭酸ガス,水蒸気やオゾン,降雨,雲粒,積雲等の物理過程が考慮されている。しかし,植生に伴う水循環や大気−海洋の相互作用については今なお研究段階である。気象研究所では,大型電子計算機(日立M−200H)が昭和55年6月に導入され,その後昭和60年12月にはスーパーコンピュータ(日立S−810/10)へと更新された。これにより,2〜3日の短期数値天気予報が実用化され,さらに10日前後の中期数値予報も現実のものになりつつある。一方大気大循環の数値実験により地球気候をモデルを使って再現しようとする研究は定性的に成功をおさめ,季節変化や数年先までの長期数値予報の実現や気候変動の理論的解明に一歩前進した。
このようなシミュレーションにはどれだけの計算量を伴うか。気象研究所のモデルで試算してみると,1日先の予報をするのに全地球表面を1万7千個の格子点で覆い,運動方程式や熱・水蒸気の式を扱い約90億ステップの計算となる。1年間の季節変化を再現するには約3兆ステップもの計算量になる。したがって1秒間に最高1700万回の計算が出来る現計算機を専用に用いても,1年間分の計算をするには数週間もの時間を必要とする。また,気候変動のしくみをより深く理解し,将来を予測するためには,現在のモデルをさらに改良するという必要もある。現在のモデルの格子点間隔を精密化して,より小さな規模の現象も予測しなければならない。このように変数や格子間隔を改良すると,全体の計算量がたちまち10倍,100倍と増えるので,将来はさらに高速かつ大型のコンピュータが必要となるであろう。
2.気象衛星による観測
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| 学院長と日立のスーパーコンピュータを語る |
3.大気−海洋系放射モデルの開発
大気−海洋系放射モデルでの放射伝達のシミュレーションを精度良く行うことは,衛星,航空機,船舶等から得られる様々な情報を解釈して,大気中のエーロゾル,水蒸気量やオゾン量,又大気効果の補正を行って海面状態や海水中のクロロフィルの分布等を求める場合に有効な手段であるばかりでなく,将来のリモートセンシングの可能性を探る意味でも重要である。大気−海洋系の上端での地球からの放射エネルギーは,可視域では80%以上が大気中のエーロゾルや大気ガスによる散乱光と海面による反射光で,残りの高々20%弱が海中に透過して海水やハイドロゾルにより散乱し,再び大気中に戻ってくるエネルギーであると考えられる。ところで大気による散乱は,波長が長くなるに従って小さくなるが,一方海水では波長依存性があり,光学的に0.45〜0.55μmでは透明度は高いが,0.7μm以上では海中からの上向き放射エネルギーは非常に小さくなる。このように波長により大気や海水の影響が異なる事を利用して,リモートセンシング法により,大気中のエーロゾル,海面状態,海中のハイドロゾル等の観測を行う事が可能である。このため抽出精度を上げようとすれば,モデルの精密化を促進しなければならない。
大気−海洋系からの放射輝度は,海面を細かく分割し,それぞれの放射特性を統計的に扱うようなモデルを設定して,逐次法を用い初めて計算された。同様のモデルで,その後モンテカルロ法を使っても求められた。さらにハイドロゾルの屈折率や濃度の変化が,大気−海洋系の放射照度に与える度合いも詳しく計算され,又衛星観測から表面の有効反射率を求める手法も導かれた。これは大気効果を除去した時の反射率である。この手法では海面は鏡面と仮定された。海面の波の影響を考慮に入れた大気−海洋系からの放射照度,放射輝度の計算も示されている。しかしこの系において,散乱,反射,屈折によって生じる偏光の変化を考慮したものはまだ得られていなかった。これは主として非均質大気,海洋での多重散乱,海面による乱反射,乱屈折,大気−海面,海面−海洋間のエネルギーの相互作用が複雑である為である。偏光度,偏光面,楕円率の計算は,海面を鏡面と仮定したモデルで,初めてモンテカルロ法を使って求められたが,さらに海中からの放射エネルギーを無視し,反射のみを考慮したモデルで,偏光度のゼロになる天空上の位置(中立点)についても検討された。最近加算及び倍増法を使って大気上端からの放射照度,放射輝度,偏光度等を一つの逐次法を連続的に使って求められることが示された。この方法は解析的方法ではなく,通例の方法で特に数値計算に適している。簡単に言えば,太陽光が多数の光子から成ると考え,地球大気に到達するとそれらが大気中のガス成分に出会う。大気はちょうど多数の玉から成り光子がまずその一つにぶつかると(散乱と呼ぶ),そのエネルギーを色々な方向にある次の玉に伝える(多重散乱と呼ぶ)。このようにして太陽の方向でない方向へもエネルギーを次々と伝えてゆくので,例えば空全体が青く見えるのである。このエネルギー伝達の様子は放射伝達と呼ばれる。コンピュータによるシミュレーションでは,精度を高めるため,10万回程度の散乱まで考慮するので,大型コンピュータが必要となるのである。
このモデルの計算には日立M−200H型大型電子計算機で約12時間必要であったが,日立S−810/10アレイプロセッサーでは,30分程で計算出来るようになった。モデル精密化の過程で今雲の効果を組み入れる研究を実施中である。とりわけ空間的に散らばった雲の取り扱い,又巻雲のような高層雲は,構成する雲粒が結晶しているので,放射伝達の計算が複雑である。層状になった巻雲を組み入れたモデル計算が漸く可能になりつつある。今のところ計算には一つの例で2時間30分位必要である。波長積分,パラメータの変換を考えると,適切な結果を得るには,数百倍の計算時間が必要と思われる。この結果を将来の衛星による最適観測方法の開発に役立てられれば幸いと思っている。