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| ACCUMU Vol.4 1992 |
| 生命の科学 |
藤 則雄 NORIO FUJI
金沢大学教育学部地球科学教室教授
生物誕生のいろいろな説
地球上で最も古い化石として知られているものは,約三十億年前の先カンブリア時代始生代の地層から発見されたバクテリアの化石である。次に古い化石としては,原始的な石灰藻類らしいものの化石である。しかし,地球上に極く単純な最初の生物が発生してから,このバクテリアや石灰藻の化石として地層の中に残りうるような古生物が出現するまでには,相当に長い時間を要したであろうということは,生物系統樹や生物進化の様子を考えれば明らかなことである。
生物の起源にかかわる問題は,古くから多くの哲学者・神学者・科学者によって種々考えられてきたことである。一番最初に考えられた説は,自然を超越した神によって創造されたとの説で,次に自然発生説がある。後者の説は,今から約二五〇年前までは,極めて一般的,常識的な考えとして,当時の人びとから支持されていた説であったが,フランスのルイ=パスツールの実験によって完全に否定された。
つまり,「生物は,生物からのみ生ずる」という今日のような考え方は,前述のような諸説を経て,ようやく確立されたのであるが,しかし,「生物がどのようにして誕生したのか」という疑問は,いっこうに解決されたわけではない。この場合の解答の一つとして,他の天体から来た,という考え方がある。しかし,この学説でも,単に,地球生物の由来について解決されただけで,「生命そのものがどうして作られたのか」という基本的疑問の解決にはなってはいないのである。
ところで,生命誕生を説明する前に,誕生期頃の地球環境について述べておく必要がある。
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| 写真1 オーストラリア北西部 ノース・ポールに分布する35億年前のラン藻が作った ストロマトライトの断面 (NHK:「地球大紀行」による) |
最初の生命が誕生した頃の地球の状況はどのようであったのだろうか。非常に低温なもとで宇宙塵が集まって地球ができたというのが宇宙塵説である。宇宙塵の温度はおよそ零下200℃で,約1億年もかかって固結した。当初,地球はかなり小さかったために大気をその表面につなぎ止める程の引力はなかったが,1億年位の間に,多くの宇宙塵が集まり,固着・圧縮によって熱エネルギーが発生し,それに地球の中に包含されていた放射性物質の崩壊によって出る熱エネルギーも附加されて地球を温めた。このため地球の中心部は九〇〇〜一〇〇〇℃にもなった。更に熱が附加されて,約十五億年の間に地球中心部は約二五〇〇℃にもなった。これにより,地球内部は溶融し,鉄やニッケルのような重い物質は地球の中心に,他方,軽い珪酸物や放射性物質は地球表面に次第に集まった。その結果,約三十五億年前には,核・マントル・地殻の3層に区分され,現在の大陸の原型ができ上がった。
| 写真2 ノース・ポールから発見された 生命化石(上)と発見したウォルター博士(下) (NHK:「地球大紀行」による) |
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| 撮影/酒井裕 |
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| 撮影/酒井裕 |
約三十五億年前,地球の内部から徐々に気体が出て来た。
現在でも,火山地域では水蒸気・炭酸ガス・窒素・水素等が出ているが,これらのうちで,水素は軽いので大気圏から逃げ去り,地球大気は,金星や火星のそれと同じく窒素と炭酸ガスを主にし,硫化水素・水蒸気・塩酸・アンモニア・メタン・塩素等が少量含まれていたらしい。
火口附近の高温地区では青酸・燐酸化合物(特に燐化水素)も存在したに違いない。
火山活動が活発であったので,局地的には大気や池が熱せられて,水蒸気が次第に豊富となり,雲・雨・雷が多くなった,と推定される。
しかし,現在大気の5分の1の体積を占める遊離酸素は,当時の大気中には全くなかった。従って,原始地球にはオゾン層はなく,太陽からの高エネルギーをもった紫外線が直接地球表面に到達し,このエネルギーの光化学反応で複雑な無機化合物が生成され,更に,空中放電等によって,無機物から単純な有機物生成への環境ができあがっていた,と推定されるのである。
原始海洋−生命発生の起源−
約三十五億年前の原始海洋には,水が非常に少なかった。
海水は,温泉・火山活動によって徐々に地球の内部から放出された水の集合体である。
そして,海水に含まれている塩分も地球内部の塩成分の放出や地表岩石の風化・溶解によって次第に海水に溶けてできたのである。
海水の量も,当初は少なかったが、約六億年前の古生代初め頃には,およそ現在量位になったようである。
ただ大きな違いは,現海水に含まれているナトリウムとカリウムに比べて,カルシウムとマグネシウムの方が多かった,ということである。
海水のこの塩分構成は,生命誕生の条件に非常に重要な関係がある可能性を含んでいる。
地球生命の誕生
(1)原始たんぱく質の生成
これまで述べてきたような創生期の地球大気・海洋のもとで,アミノ酸や低分子化合物が作られた,と考えられている。
ところで,この低分子物質がどのような経過で,どのようにしてたんぱく質とか核酸とかいう巨大分子になっていったかを研究することは,生物の誕生の研究にとって一番大切なキーポイントであり,これまでに多くの研究がある。
赤堀四郎は,地球表面がまだかなり高温であった時期に,アンモニア・青酸・フォルマリン等が加熱されて,反応性の低分子の物質ができ,地表に吸収されて,次々と低分子がつながり,かつ,水分に触れることによってポリグリシンという高分子物質が生成された,と推定した。グリシンは最も簡単なアミノ酸で,このグリシンが多数連結したのがポリグリシンである。これは,たんぱく質の背骨に相当する。地表に吸収されたポリグリシンは,いろいろの単純な化合物と反応し,連結して,普通のたんぱく質が生成された,と考えられた。
つまり,原始地球の頃,簡単な化合物が還元状態のもとで存在し,紫外線・雷放電等を熱エネルギーとして利用しつつ,より複雑な有機化合物を,一部では,たんぱく質のような巨大分子をも生成した,というわけである。
表 地質時代区分・生物の変遷・日本の地史(藤則雄編)

(2)高たんぱく質の生成
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| 図1 コアセルベートの生成過程を示す模式図 |
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| 図2 オパーリンのコアセルベート |
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| 図3 ミラーの有機物・たんぱく質生成の実験装置の模式図 |
(3)核酸の重要性
ところで,コアセルベートが生物に発展してゆくには,非常に大切な要因の参画が必要である。それは核酸である。この核酸は,均等に二つに分裂してゆくこと,すなわち,母体と同じものを作るのに大きな役割を果しているのである。現世生物のすべてに見出され,しかも,分裂を指揮しているのが,この核の中にある核酸である。これがコアセルベートの中に持ち込まれて初めて,コアセルベートは自己複製能力をもった生物へとつながっていくのである。
(4)酸素のない海での生物
既述のように,原始大気中には遊離性の酸素ガスが含まれてはいなかったので,当然のことながら,海水も酸素の欠乏状態にあった。従って,かかる海水中の最初の生物になるまでのコアセルベートのような閉鎖的系の中で主役を果すのは,当然酸素を必要としない物質同志の反応であったはずで,それは,現在の生物にも認められている。この反応を発酵現象と呼んでいる。
このような発酵現象が,無生物から生物へと変化してゆく時代にも酸素のない海洋に存在し,体の構築や反応のためのエネルギーの提供にとって役立っていた,というのが現在の主要な意見なのである。
酸素がないということは,コアセルベートから次の高次の生物への進化の時期には,必ずしもマイナスの条件ではなかったのである。
(5)酸素の出現と葉緑素植物の発生
地球ができてから一〇億年を経た頃,最古の岩石ができたが,当時の岩石には,酸素の存在を説明する証拠はない。酸素の存在は,約二五億年前からで,当時,赤鉄鉱というような鉄と酸素との化合物からなる鉱物の存在から証明されている。従って,この当時以降に,緑藻類が出現した,と推定される。すなわち,マグネシウムとポルフィリン等から葉緑素ができ,太陽のエネルギーと水から光合成が開始されたのである。もちろん,約二五億〜一五億年前のこの間,大気中の酸素の分圧は現在のそれに比較して遥かに小さいものであった,と考えられている。しかし,葉緑素の出現後,急速に酸素が増加し,生物の進化が加速度的に進み,やがて地層の中に多くの無脊椎動物を化石として残すような古生代へと推移していったのである。
| 写真3 オーストラリア西南部ハメリンプールの厚い鉄鉱層 (NHK:「地球大紀行」による) | |
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| 図4 アミノ酸の結合→たんぱく質の生成 | 撮影/酒井裕 |
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Revised:June 30,1999
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