トップ » バックナンバー » Vol.12 » The Internet2 - Dance in the Digital Age

Accumu Vol.12

The Internet2 - Dance in the Digital Age

京都コンピュータ学院 植田 浩司

次世代インターネットの技術に関する学会「The Internet2」が2002年10月,ロサンゼルスにて行われた。The Internet2は高度なハードウェア,ソフトウェアによる新しいインターネット時代の様々な可能性を探ることを目的として,定期的にアメリカ各地で行われている。アメリカの学会はたいてい大きなホテルで行われることが多く,今回もダウンタウン・ロサンゼルスの屈指のホテルで開催された。ホテル内には協賛企業の協力により無線LANの臨時ホットスポットが設けられ,発表でのデモンストレーションのために高価な機材や,高速の回線が確保されていた。アメリカでは,このように産・官・学協力体制で新しいことが推し進められている。

今回の学会ではUniversity of Southern California(USC)の協力のもと,高速回線を使ったインターネットの利用技術の応用として「Dance in the Digital Age」というパフォーマンス・イベントが行われた。このイベントは,インターネット回線を通じて,異なる場所で繰り広げられるダンスパフォーマンスを同次元的に結びつけようというものだ。インターネットという最先端のテクノロジーによってアートの新たな表現方法が生まれることが期待されている。

京都コンピュータ学院はこのイベントにアメリカ・イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois at Urbana-Champaign)との共同研究の成果として「Humming Bird」というダンスパフォーマンスを発表した。アートディレクターを務めた京都コンピュータ学院のYu Hasegawa Johnsonは同大学のBeckman Institute for Advanced Science and Technology (http://www.beckman.uiuc.edu/)に研究員として派遣されている。

「Dance in the Digital Age」はUSCのBing Theaterという劇場で行われ,ホテルでの講演が終わった夕刻になると,学会に参加していた人々が集まってきた。カリフォルニアの気候がとても心地よく,劇場の前の広場には即席のカフェが用意され,開演前の時間を学会の話などで盛り上がりながら過ごしている様子が散見された。私たちは発表の関係者ということで客席中央の特等席を確保した。劇場後方にはいくつもの大型プロジェクターが並べられており,舞台袖には発表大学のエンジニアたちが最新鋭の機材の調整に忙しく動きまわっていた。

「Humming Bird」はプログラムの二番目として発表された。舞台と観客席が暗転し,舞台袖からダンサーのChih-Chun Huangさんが現れる。少女が森で迷ってしまったという設定だ。舞台に設置された特殊な透明のスクリーンにはCGによる森の映像がプロジェクターから投影され,鳥のさえずりも聞こえる。舞台袖からの照明は,スクリーン後方で踊るダンサーを照らし出していた。

まもなく,全身緑色の妖精がスクリーンに現れ,幻想的な舞踏を始めた。緑色の体にはやがて青い羽が生え,幼虫から成虫へと成長する森の生物を表している。妖精の動きは,まるで舞台にいるかのように,ダンサーと息がぴったり合っていた。実はこの妖精は,遥か離れたイリノイ大学の研究室で踊る別のダンサーと全く同じ動きをしている。体の各部位にとりつけたセンサーの位置が複数のカメラによってモーションキャプチャーされ,動きのデータとしてロサンゼルスの劇場まで転送されているのだ。劇場に送られてきたデータはその場で解析され,3DCGのキャラクターとしてスクリーンに投影される。

このパフォーマンスは,モーションデータのみを送り,そしてローカル側で3DCGを作成する点が高く評価された。他の発表者が遠隔地で撮影された映像と音を最高品質でロサンゼルスに送っていたのに対し,データ量が格段に少なかったためだ。また,技術面もさることながら,演出のアイデアとしても非常に興味深い。妖精の姿が次々と変化するさまを表現するには,動画と比べて加工が容易なモーションデータが適しているのだ。

インターネットは人々の英知により様々な分野で利用され,発展してきた。そしてこのようなダンスパフォーマンスが次のインターネット技術を開発・発展させるきっかけとなってゆくのかもしれない。アメリカでの学会,とりわけインターネットというホットな分野での発表だからこそ,こうした一見技術とは関係のなさそうなものに人々の目を向けさせることが大切であると感じた。

関連URL

●http://arts.internet2.edu/fall2002-perfevent-technology.html

●http://arts.internet2.edu/fall2002-perfevent.html

この著者の他の記事を読む
植田 浩司
Koji Ueda
  • 京都情報大学院大学教授
  • 関西大学工学部卒業
  • 関西大学大学院工学研究科修士課程修了(機械工学専攻)
  • 工学修士
  • (米国)ロチェスター工科大学大学院修士課程修了(コンピュータサイエンス専攻)
  • 元松下電工株式会社勤務
  • JICA専門家(対モザンビーク共和国)

上記の肩書・経歴等はアキューム24号発刊当時のものです。