Accumu おかえり「はやぶさ君」~奇跡の生還

講演要旨

世界初への挑戦は難しい,でも素晴らしい 太陽系誕生の謎解明へ大きな期待

吉川 真
JAXA准教授 吉川 真 

「はやぶさ」は2010年6月13日,ついに戻ってきた。そしてカプセルの中から100分の5ミリ程度の非常に小さい微粒子がたくさん見つかった。成分を調べてみたところ,地球外の物質であることが分かり,非常にうれしかった。「はやぶさ」のことをたくさんの方々から応援していただき,ありがとうございました。プロジェクトチームへの大きな励みになった。まずお礼を申し上げたい。私の専門は軌道計算。はやぶさプロジェクトではサイエンティストとして「はやぶさ」の軌道計算をしてきた。後継機の「はやぶさ2」では準備チームの取りまとめ役も務めている。「はやぶさ2」ミッションが実現できたとしたら,打ち上げは2014年か2015年,小惑星に到着するのが2018年,地球に戻ってくるのは2020年という計画。この会場には小学生も多くみられるが,ミッションが終了するのはその小学生が大学生,若手研究者になっているころ。「はやぶさ2」はなかなか予算が付かない状況だが,「はやぶさ」の成果を次の世代に伝えていくためにも,ぜひ実現させたい。

持ち帰った微粒子は,隕石のものと同じ

「はやぶさ」は「イトカワ」で物質採取のため2回タッチダウンした。微粒子は,カプセルの中にある2つの小さな部屋「サンプルキャッチャー」のうち,2回目のタッチダウンで使ったA室から見つかった。まず約1500個あったのだが,その後,A室をさかさまにして叩いたところもっと多くの粒が出てきている。後で出てきたものは,現在「イトカワ」のものであるかどうかをチェックしているところ。まだ開けていないB室からも微粒子が出てくることを期待している。微粒子の発見は,日経新聞などトップで大きく報じた新聞もあった。

これらの物質がなぜ「イトカワ」の物質であると分かったのか。かんらん石や輝石は,地球上の岩石にも含まれている鉱物だが,その鉱物に含まれている鉄の割合を調べたところ,地球の岩石の割合とは違い,隕石のものと同じだった。それで結論付けた。

講演会の様子
講演会では,はやぶさプロジェクトの主要メンバーのひとりでJAXA 准教授の吉川 真 博士が,
「はやぶさ」が成し遂げた快挙とそれに至るまでの苦労などを話した
カプセルは新品同様

それでは,小惑星へ行って戻ってくるという技術を実証するための探査機「はやぶさ」は私たちに何を教えてくれたのか。やはり世界初に挑戦することはいかに難しいことか,そして素晴らしいことかということ。想定外のことも多く,難しさは身にしみて感じた。でも,アメリカからデータをもらって,後からわれわれが研究することがほとんどだっただけに,今回は日本が一番ということは感慨深い。ミッションを達成できたのは,JAXA,大学の研究室,そして企業が良い人材を出してくれたため,非常にいいチームを組めたということが大きい。これらのことをぜひ,これから活躍する若い世代につなげていきたい。

カプセルを初めて公開したのは2010年7月30,31日。暑い中にもかかわらず,神奈川県相模原市の科学館には4000人が詰めかけ,4時間待ちだったほど。待つのが大変だったと思うが,訪れた人たちは「本物を見ることができて良かった」と話されていた。

「はやぶさ」は太陽電池を含めると6メートルほどだが,本体は1メートル×1.5メートルほどの小さなもの。これが7年間,メンテナンス無しで戻ってきた。技術の塊のようなものだ。その中にあるカプセルは鍋のような形をしている。それが秒速12キロメートルで地球の大気圏に突入,そのとき表面温度は3000度を超えるが,それを守るのが「ヒートシール」。この「ヒートシール」の表面は焼け焦げ,溶けてしまっている。ところが中身は,7年間宇宙を飛んできたとは思えないほど,新品同様だった。カプセルなどは今後,各地で公開される予定なので,実際に宇宙空間を旅してきたものを見ると,あらためて感動していただけると思う。

小惑星探査機「はやぶさの」イメージ
小惑星「イトカワ」
小惑星探査機「はやぶさ」のイメージと,
小惑星「イトカワ」=JAXA 提供
「MINERVA」,弾丸は残念ながら失敗

続いてはやぶさミッションについて紹介したい。「はやぶさ」は長い夢の実現だった。打ち上げられたのは2003年5月9日。2010年6月13日に戻ってきたので,実に合計7年1ヵ月間におよぶ長旅だった。実際,プロジェクトが始まったのは1996年ごろ。アイディアが持ち上がり議論が始まったのはさらにさかのぼって1985年ごろ。私はまだ,大学の修士課程にいた。それから実に四半世紀を経た。

「はやぶさ」は探査機として,たくさんの「世界初」に挑戦し成し遂げた。まず月以外の天体に着陸し戻ってきた。さらに月以外の太陽系天体から離陸したのも世界初。大きさがわずか500メートルの天体に行ったこと,小惑星から物質を持ち帰ったこと,そしてこれは予定外なのだが,惑星間空間を飛行し大気圏に突入したというのも例が無い。

「はやぶさ」は,太陽電池が太陽光を受けて発電,通信を受けて稼働する,日本で開発したイオンエンジンを搭載,小惑星の表面物質を採取するための装置,着陸のためのセンサーやデータを撮るカメラなどが付いている。地球から飛び出した後,宇宙空間に出て最初の1年間は地球とほぼ同じ軌道を通り,いったん地球に戻ってくる。地球の引力を使って軌道を変え,「イトカワ」の軌道に乗り,「イトカワ」に接近する。「イトカワ」に到着するとイオンエンジンを切り,小さな化学エンジンに切り替えて止まる。その際,レーザー光線で距離を測ったり,カメラで表面の写真をたくさん撮ったりして,「イトカワ」の形を判断する。そうしないと着陸する場所が決められない。

着陸する場所が決まると,その上空に行き,人工的な目印で弾まないボールのような「ターゲットマーカ」を放ち,フラッシュの反射を撮影して位置を把握する。途中で小さなロボット着陸機「MINERVA」を使う予定だったが,今回は残念ながら地面に落ちなかった。この後,足が地面に触り,その瞬間,弾丸が表面に打ち出される。表面が砕かれて破片が上がり,それをケースに入れ,カプセルに保存する予定だった。だが弾丸が出ず,採取できた物質は非常に少なかった。もし「MINERVA」が地上に落ちれば,これがぴょんぴょん跳ねて移動をし,カメラや温度計により情報を地球へ送ってくるはずだった。残念だ。これで小惑星でのミッションは終了,その後は地球への帰還となる。カプセルを切り離して大気圏に突入,最終的にはパラシュートを開いてオーストラリアの砂漠に到着する。これが「はやぶさ」ミッションの計画。うまくいったものと,いかなかったものがあった。


「はやぶさプロジェクト」のユニホーム姿
吉川博士は,「はやぶさプロジェクト」の
ユニホーム姿で登壇
通信復活まで7週間

「はやぶさ」はM―Vロケット5号機にて,2003年5月9日に鹿児島県内之浦の宇宙空間観測所で打ち上げられた。打ち上げは軌道修正されることもなく順調だった。3週間ほど後にイオンエンジンを点火,1年後に地球の重力を利用して加速する「地球スイングバイ」に成功した。この後,「イトカワ」にどんどん接近していく。「イトカワ」に到着する1ヵ月半くらい前から,「はやぶさ」のカメラで「イトカワ」が撮影できるようになった。「イトカワ」は小さいので,カメラを十分見ながらでないとたどり着けない。実際,撮影された映像を見たところ,非常に変わった形をしていると驚いた。

その後,観測を繰り返しながら着陸する場所を探した。場所が決まると3回ほど着陸の練習をした。その後,「MINERVA」を切り離したが失敗。1回目のタッチダウンは途中までは順調で,ターゲットマーカもちゃんと降ろしたが,その後,地面にぶつかってバウンド,不時着してしまった。「イトカワ」の表面に30分以上いた。離陸もうまくいき,壊れた様子はなかったので2回目のタッチダウンに挑戦することにした。これも途中まではうまくいったが,結局は失敗。この後が実は大変で,燃料漏れを起こして姿勢を保つことができなくなり制御がきかなくなった。

通信も停止。ラッキーなことに通信は7週間後に復活したが,調べてみると化学エンジンがすべて使えない,バッテリーも壊れていた。ただ,イオンエンジンだけ無事だった。そのため帰還が3年間遅れることになってしまった。しかし2009年の11月にはイオンエンジンも壊れてしまい,これですべて終わりかと思ったが,イオンエンジンは「裏技」で復活。多くのトラブルはあったものの,帰還を果たすことができた。

小惑星「イトカワ」のついての解説
模型を手に,小惑星「イトカワ」についても詳しく解説
「お手玉」の原理を採用したターゲットマーカ

「はやぶさ」はもともと,いろいろな技術を実証する,開発するためのミッションだった。まずは①イオンエンジン。これは日本で開発されたものだが,エネルギー源が太陽というのがポイント。キセノンというガスを高速で噴き出すことによって軌道を変えていく。このキセノンを高速に加速するためのエネルギーは,太陽の光を使って発電された電力。要するにエネルギーを現地調達していることになる。それで探査機を軽量化できた。

次に②ターゲットマーカ。これをいかに弾まないものにするかがポイント。地球では重たいものを落とせば弾まないが,「イトカワ」は非常に重力が弱いので,弾んで飛んで行ってしまう。そこでいろいろ考えた結果,「お手玉」構造にしようということになった。表面のシートの下に100個以上の小さな粒を入れた。そのターゲットマーカのひとつには,みなさんから送っていただいた88万人分の名前が刻まれている。それは今,「イトカワ」にある。

そして③「MINERVA」。これは長さ10センチ,600グラムという小さなもの。車輪も脚もないが,ぴょんぴょん飛び跳ねて移動する。「イトカワ」の重力が弱いということを考えて開発したのだが,あまりに弱過ぎて失敗した。最後に④弾丸を打ち出してサンプルを採取するという装置。すくったりつかんだりするのではなく,荒っぽいやり方だと思われた人も多いだろう。これは「イトカワ」の表面がどんなものか分からなかったための措置。砂状ならいいが,岩であっても採取できるよう,このようなやり方を選択した。初めて行った所で必ず何かを採取したいという強い思いがあった。

「はやぶさ」本体は,本当は大気圏に突入する予定ではなかった。熱に耐えられるようにつくってはいない。カプセルを落とすという重要な役目を終えたが,化学エンジンが使えず地球に飛び込まざるを得ない状況になった。そして燃え尽きた。

小惑星「イトカワの模型」

吉川博士が持ってきた小惑星「イトカワ」の模型。形がいびつであることが分かる。
凸凹していた「イトカワ」の表面

「はやぶさ」は人気者になった。カプセルがオーストラリアからJAXA相模原キャンパスに到着したのは(2010年6月18日の)午前2時ごろで,トラックの荷台からカプセルが入った大きな箱を下ろして運ぶだけの作業だったというのに,大変多くのマスコミが取材に訪れた。

「はやぶさ」が撮影した写真により,太陽系の小惑星はクレーターに覆われているのは当たり前だと思っていたが,「イトカワ」の表面は凸凹。岩がごろごろしていた。これには衝撃を受けた。「はやぶさ」の着陸する場所を探すのに苦労したほどだ。

表面がこのような形態である理由は,規模が小さいことが挙げられるだろう。「イトカワ」はいびつな形をし,いちばん長い所で,わずか500メートルほど。東京タワー(333メートル)よりは大きいが,スカイツリー(634メートル)よりは小さい。京都駅と同じくらい。2000分の1の模型を持ってきたので,後で触れてみてほしい。「星の王子様」は小さな星から来た。王子様は星を簡単に一周できるという。小惑星だったのだろうか。アメリカは惑星への探査を優先させていたようだが,今回の「はやぶさ」の成果を受け,欧米各国も同様のミッションを計画しようとしていると聞く。

「はやぶさ2」で次なる挑戦

ミッションの太陽系は今から46億年前に生まれたとされる。その前は宇宙空間に星間ガスがあり,このガスが収縮して真ん中に太陽が誕生した。このころから小惑星が生まれ,それが合体して惑星になったとされる。われわれは地球が生まれる前にあった物質が何なのか,どういうものなのかを知りたかった。それは小惑星からなら採取できると思った。

「はやぶさ」のカプセルの中からは「イトカワ」の微粒子が発見され,今後の調査が期待される。「イトカワ」の表面の岩石には水や有機物が少なかった。ほかの小惑星の中には,水や有機物を多く含んだものがあるといわれる。そのような小惑星を探査し,物質を採取するのを目的とするのが「はやぶさ2」ミッション。「はやぶさ」の経験を十分に生かしたミッションにしたい。

「はやぶさ2」では,円筒型の箱を切り離し,上空で爆発させ人工のクレーターを作る。その間,本体は移動,逃げるということ。本体はクレーターの部分に着陸し,表面内部,地下50センチ~1メートルほどにある物質を採取したい。

「はやぶさ2」は2 0 1 4 年か2015年に打ち上げ,2018年6月に小惑星到着,2020年に帰還するという計画。いま予算要求中だが,早く決めないと間に合わないので,理解を求めていきたい。

小惑星探査には①科学―地球や生命の起源を知る②防災―天体の衝突から地球を守るための対策③資源―将来的に鉱物や水資源が活用できるようになる可能性④有人ミッション―月や火星などへの移動⑤技術―太陽系内を移動する,などの意義がある。人類の未来のためにも調査・研究を続けていく。

会場の天文ファン
会場には多くの天文ファンが訪れた。「はやぶさ」の模型の周りには,カメラに収めようとするファンの大きな輪ができた