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Accumu Vol.4

C&Cと高度情報化社会

日本電気株式会社 C&Cシステム事業推進部長

大桑 邦夫

社会の変化

まず最初に,今日に至るまでの社会の変化ということについて簡単に触れ,現在,ポピュラーになっている「情報化」や「高度情報化社会」という言葉の背景を少し説明します。

●第三の波

十数年前,有名なアルビン=トフラーの「第三の波」というものが発表されました。最初の波は,「農業革命」です。それ以前,人間は狩猟採集ということをしていましたが,農業革命によって,定着できたわけです。この農業社会の時代が,17,8世紀までのおよそ1万年間続きました。次の波が,よくご存知の「産業革命」で,1650年から100年間くらいに起こったと言われています。そして,その次が「情報革命」と呼ばれているものです。米国では,1955年~1965年に情報革命が始まったと見られていますが,この情報革命とはどういうものだったのでしょうか。トフラーによると,「いわゆる,ホワイトカラー,あるいはサービス産業の従事者が,ブルーカラーの人数を超えた時をもって,情報革命が起きた」とされています。この時期には,コンピュータや商用ジェット機という革命的手段が普及し始めています。そして,これらの革命の期間は,だんだん縮まってきています。すなわち,次の新しい革命は,おそらくもっと短い期間で起こるだろうと言われています。

●情報化社会

未来学者のダニエル=ベルによりますと,社会は農業社会,工業社会,そして情報化社会(脱工業化社会)へと発展した。特に情報化社会では,第一次,第二次産業に加え,三次,四次,五次など,新たな産業が起きているとされています。そして,非常に重要な指摘は,戦略的資源は何かということで,最初は,原材料であり,金融資本となり,現在,知識になったとされています。ここが大きな変化だというようにとらえているものです。

●高度情報化社会とは

高度情報化社会を一言で言うと高度の通信技術と情報処理技術が融合化された,いわゆるC&Cシステムが,社会の中に定着し,行政や産業や文化,あるいは個人などの,非常に広範囲な分野まで及んだ社会のことです。そして現在は,そのかなりの段階のところにまできていると思っています。

情報化とは

今まで,情報化という言葉を,かなり気楽に使ってきましたが,実際にはどういうものかということを,もう少し説明します。情報化を表すいくつかの言葉がありますが,ここでは,C&CとITを紹介します。C&Cというのは,私どもの会社のコーポレートアイデンティティであり,Computers & Communicationsの略で,&(アンド)というのは,コンピュータと通信を融合するという意味です。

図

図1は,C&Cの概念図です。2000年までの,通信とコンピュータの発達,発展の歴史を示しています。通信の方をみますと,電話から始まり,アナログからデジタル化が進んできて,今世紀末,あるいは21世紀の初めにかけては,サービス統合デジタル通信網,ISDNというものが普及していくだろうと考えられます。それは非常に高速で,広帯域,そして音声も映像も自由にやりとりでき,統合化されるというものです。また,コンピュータについては,最初の単能型から,次第に,汎用型や,あるいは知識型になってきています。装置を横成する,一番重要なコンポーネントは,真空管に始まり,トランジスタ,ICを経て,超LSIの時代になってきています。これは,大きく言えば,いずれもデジタル技術が進展しているということであり,コンピュータと通信というのは基本的には,同一の技術の下に融合していくという時代になってきているということになります。

次に,IT(Information Technology=情報技術)という言葉です。これは,フリーマンという人の言い方でありますが,コンピュータやソフトウェア,マイクロエレクトロニクス,通信というような分野の先端技術の集合したものである,ということです。

C&C,IT,いずれもコンピュータだけではなく,そこに通信の技術,あるいはそれらの製品,装置を支える高度の半導体技術が融合されたものという見方です。

●情報化の具体例

それでは,情報化の具体例を二,三説明します。

一番目は,いろいろなものが電子化されるということです。一番,わかりやすいのがお金です。現物のお金をやり取りするというより,電子的にやり取りしてしまうという時代になっています。これはまさに,情報化の代表です。

二番目に,ソフトウェア化です。従来は,物そのもの,見えて触れるようなものに価値があるとされていたわけですが,それが,情報そのものも価値が高まってきたということです。辞書の内容が記録されたコンパクトディスクやビデオや情報誌などの例があります。

第三は,サービス化で,その一つの例がダイヤルQ2であります。情報を有償で提供し,その対価を,情報提供者になり代わって,NTTが回収するということがビジネスになっています。

第四は,ネットワーク化です。従来に比べて,いろいろな組織の結びつきが広まってきています。企業と金融機関というのは当然ですし,企業同士でも,いろいろな結びつきがあります。例えば,トラベルエージェンシーも,単に交通機関だけでなく,ホテルやその他のサービス業とつながってきていますし,我々消費者自身も,サービス提供者とつながってきています。

高度情報化社会の概念

このような情報化がさらに進んで,現在,高度情報化社会,あるいは高度情報社会と言われているわけですが,それをいくつかの点から整理してみました。

●高度情報化社会の形態

経済や産業の領域では,まずお金が情報に取って代わられつつあります。したがって,キャッシュレス社会になってきたということですが,それは単に,消費者と小売の間だけではなく,企業と金融機関の間なども,キャッシュレスになってきています。

二番目は,情報とソフトウェアで武装化した産業です。産業分類として,第一次,第二次,第三次産業がありますが,最近では,それぞれが,情報やソフトウェアで武装した形になってきております。例えば,第二次産業では,ソフトウェアで武装化したものを第二・五次産業という呼び方ができるでしょう。コンピュータ化が進み,統合化された情報システムによって,技術,生産,販売が,効率よく行われてきている第二次産業の製造業は,まさに情報で武装化した製造業ということで,二・五次と言えるのではないかと思います。また第三次産業の,サービス業,流通業で,最近非常に大きく伸びているのは,宅配便であります。宅配便というのは,まさに情報システムを駆使することによって,初めて成り立っているものです。したがって,古典的な三次から一段と進んだ,第三・五次産業というような言い方ができるのではないでしょうか。

生活の面でいいますと,物の購入のスタイルが,非常に変わってきています。実際お店に行き,現物を見ながらというのではなく,情報手段を使い,予約しておいて,後で取りに行くとか,後で送ってもらうとかいうやり方があります。例えば,ファミコンを使って株の売買もやりますし,いろいろな情報がつまったICカードを使うということもできてきています。また,アミューズメントの世界でも,最近のものは,大部分が情報技術を活用したものになってきているということが言えます。

●高度情報化がもたらすもの

しかしながら,高度情報化によって,多くの良いことがある一方,場合によっては,マイナスの影響を与えるということがあるかもしれません。

一つは,社会への影響ですが,情報の集中化,寡占化により,企業間の格差が増大するということがあります。最近,SIS(Strategic Information System=戦略情報システム)が話題になっていますが,情報で差別化し,企業競争に打ち勝とうとするものです。このように,情報が非常に重要になればなるほど,その法的な整備が求められてきます。各種の権利の問題,あるいは犯罪への対応というような,新しい側面での環境の整備が求められてきます。次に,個人への影響については,情報が溢れていて,どれかを選択するだけで,生活できるというような点が指摘できます。自分で物を考えて作り出すということではなく,必要な情報を選択するだけというようなことも起きてきます。従来に比べ,情報機器を操作する能力もより求められてきています。このようなことが国家間にも起き,企業と同じように,情報の集中と寡占ということで,国の格差ということにもなってきます。他国の情報が,容易にその国に入ってくるということで,固有の文化を守ろうという点では,難しい面も出てきます。

●情報の産業化

平たく言えば,情報そのものを商売にする,あるいは事業にするということが生まれてきました。情報提供ということ自身が,ビジネスになってきています。情報誌やデータベース,電子出版など,またパソコン通信など,情報をネットワーク化するというサービスが,事業化されているというようなことも出てきています。

高度情報化を支えるC&Cシステム

以上,簡単に高度情報化社会の概要をご紹介しましたが,以下に,比較的新しく先端的なシステム例をいくつかご紹介します。基盤システム,いわゆるインフラストラクチャーにあたるもの,社会的あるいは公共的なシステム,産業システム,個人向けのシステムから一つ,二つ取りあげます。

●グローバルマルチメディアコミュニケーションシステム
図

テレコムと呼ばれる電気通信の国際的な展示会が,4年に一度催されます。最近では去年の10月,スイスで行われましたが,ここで展示されていたグローバルマルチメディアコミュニケーションシステムについてご説明します(図2)。これは地域的な広がりをもって,複数のメディアを同時に活用できるものです。文字情報は当然のことですが,音声や図形,手で描く情報,動画を融合して扱え,互いに通信ができるシステムです。高速・広帯域通信網(ブロードバンドISDN)というものがあります。非常に高速で,テレビやハイビジョンも,高画質で自由にやり取りできるような通信網が,国内では部分的に1995年(普及するという意味では,21世紀の初めになるかと思いますが)頃から,作られていきます。こういう新しい通信網を前提とし,その下にハイパーメディアステーション,すなわち各種のメディアを自由に操れるという端末装置を想定してやると,どういうことができるでしょうか。地域的に分散した端末装置の前に人が座り,お互いにディスプレイ上の顔を見ながら,文字,グラフ,動画の情報などをやり取りしながら会議をしたり,ディスカッションしたりするということができます。だから,多数の,遠隔地にいる人が,あたかも同じ部屋で話をしているかのような臨場感が生まれます。現在は,テレビ会議というのがありますが,それの非常に発展したものとも言えると思います。

●自動通訳電話
図

電話の両端で,例えば,日本語と外国語で自由に会話ができるということがねらいです。今世紀末や来世紀での実現を目指し,チャレンジすべき大きなテーマだと思われます。実現のための大きな技術的要素の一つは,音声認識で,誰の言葉も認識する不特定話者認識という技術が必要ですし,自然な速さで話したものが理解できるというような技術も必要です。そして,翻訳ですが,現在もコンピュータによる自動翻訳が実用化されつつありますが,一層の正確さ,高速化の技術が必要になります。その次に,結果を音で,言葉でアウトプットするという,音声合成というものが必要です。これらの技術によって最終的には,日本語と外国語の間の自動通訳ができると考えています(図3)。

以上の二つは簡単に言えば,いつでもどこでも通信し,話し合いができるということを狙ったものであります。距離と言葉の壁を破るということが目標です。

それでは,社会・公共システムの例をご紹介します。

写真

写真1には,コンピュータのディスプレイ上に,地図が出ています。これは,一軒一軒の家と,その家を誰が所有しているかということが表示され,同時に,水道管がどこに埋設され,その管の口径,材質,流量,設置年月等が,データベース化されているものを表わしたものです。このシステムでは,任意の水道管をピックアップすると,その管の状況が細かく表示されます。また,量水器(水道のメーター)は計量法に基づき,一定期間毎に検定が必要ですが,同様の操作で,任意の量水器がいつ検定されたか,今後いつ検定が必要かということがわかります。このように,位置とその属性を統合して管理するような情報は,地図で表示することが必須です。地図は今までコンピュータでは扱いにくかったものですが,現在ではかなり一般化してきているという例の一つです。

次に,東京都の消防管制システムを例に挙げます(写真2)。災害,事故を,できるだけ迅速に処理することにより,災害規模を局所化し,貴重な生命・財産を守ろうとするものです。このシステムは,災害,事故の発生により,119番通報があり,それを受けてから適切な規模の消防車を送り出したり,救急車を現場にさし向け,病院に連れて行くところまで管制します。この消防管制システムは電話を受けると,その電話局内の詳細な地図をディスプレイに表示し,それを見ながらやり取りするということで,正確な災害点を迅速に特定します。それに基づき,どの程度の規模,どういう編成の消防自動車,救急車を出動させたらいいかということを定めます。出動させた後も交信をし,どの道を通ったらよいか,どの救急病院に行くのが最適かの指示も行います。これも,通信とコンピュータの,非常に最先端の技術を集めたものの例です。

写真3には東京衛星教育センターという文字が写っていますが,これは衛星を使った教育システムの例です。衛星を使うことによって,一ヵ所から全国に,即時に情報を送ることができると共に,講師や受講者の移動時間,移動の費用が節約できます。したがって,分散化,広域化した組織における教育の効果が非常に上がるというものであり,衛星を利用した非常にうまい使い方として,今後,普及していくのではないかと思われます。

図

次は,産業面でのC&Cシステムの応用例です。最近,仮想現実感(人工現実感)と呼ばれているものが話題になっています。体感するには,かなり仕掛のあるめがねをかけますが,この中にコンピュータで作り出した映像が映るようになっています。目には,このめがねの中の情報だけしか見えないので,この情報,画像を非常に巧妙に作ることによって,実際はないのだけれども,あたかもその世界にいるかのような感じになるわけです。同じようなことは,視覚だけでなく,聴覚や,触覚でも可能です。また,手や顔の動きを検知し,例えば首を左右に動かせば画面も左右に動き,上下に動かせば上下に動く,というような制御をします。手を動かせばそれと同じ動きをコンピュータ上の仮想的な手にさせることができるわけです(図4)。例えば,全国各地に散らばる,離れた複数の人が,共同して自動車の設計作業をしようという時に,それぞれのめがねを通して一つの世界が見え,お互いに共同して作業ができるということになります。他の例で言えば,家をデザインする時,仮想現実感を使えば,コンピュータで家を仮想的に作り出し,その中を人が歩き回り,階段を登ったり,部屋を通り抜けたりできますし,場合によっては,その壁や床の材質をも触覚できるようになるというようなことまで考えられます。

写真

次に,非常に高速のスーパーコンピュータを使った例をご説明します。写真は,車の形をコンピュータに入れておき,車が走った時,周囲の空気の流れがどういうスピードになるかを計算式を解いて,表示したもので,抵抗の少ない自動車を設計しようとするものです。これまでは,風洞実験が用いられてきましたが,モデルを作って実験する代わりに,計算して解いてしまうということが可能になりつつあるわけです。別の例として,分子化学が挙げられます。これは,複数個の原子が集まった分子の化学的,物理的な性質を探るものであります。理論的には,その性質というものは方程式で解けると言われていますが,実際には,計算して解くにはあまりにもたくさんの演算回数が必要であり,実用的ではなかったのです。しかし最近では,新薬の開発の分野などで,コンピュータを使って計算して解くことによって,その性質のかなりの部分を調べることができるという状況になっています。写真5は,高速のスーパーコンピュータで,数十時間もかかって抗ガン剤の分子軌道を計算し,表示したものであります。新薬の開発というのは,十年とか,何十億,何百億と費用がかかると言われていますが,実験に代わって計算して解くことによって,時間の短縮や費用の削減をはかることもできつつあるという例です。

最後に,パーソナル領域でのC&Cの例を,二つご紹介します。

図

図5は,点字パソコンです。視覚障害者の方でも,パソコンを使えるようにしようとするものです。入力は点字キーボードから行います。点字のピン配列に対応しているキーを押せば,パソコンに文字が入るわけですが,その文字は指先タッチで読み取れるピンディスプレイにも出てきます。文字入力ができれば,あとはワープロと同じで,漢字カナ混文に変換することができます。正しい入力がされたかどうかは,通常のディスプレイ,点字のピンディスプレイの他に音声でも出されるので,視覚障害者は入力を二つの方法でチェックできます。このような仕組みによって,点字でワープロが打てるということになります。またこの点字パソコンは,読書機,本を読む機能というのを持っています。フロッピーディスクに格納された文書,小説,新聞情報などを,点字,あるいは音声で出力させることができます。その他,CD-ROMに記録された,例えば,辞書や用語集などが市販されていますが,それをセットすれば点字で検索し,その結果を点字で出力したり,あるいは,音声で出力したりするということができます。

パーソナル用のもう一つの例は,自動車用のナビゲーションシステムです。通信,特に衛星とコンピュータをうまく使ったものです。ディスプレイに,自勤車の走行に応じて,付近の地図が上下左右に移動表示されていって,自分の場所がわかるというものです。自動車の位置は,複数個の人工衛星との距離を測定して決めています。この地図も標準化されつつあり,この春からは,かなり一般的に出てくるのではないかと思います。

(京都コンピュータ学院京都駅前校舎竣工記念フェスティバルより)

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Kunio Okuwa
  • 日本電気株式会社
    C&Cシステム事業推進部長

上記の肩書・経歴等はアキューム4号発刊当時のものです。