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Accumu 最新号Vol.26-27

ジャパンエキスポに参加して

京都情報大学院大学教授 武田康廣

京都情報大学院大学教授 渡邉昭義

京都市ブースを中心としたジャパンエキスポの様子とロンドンで行われたマンガ展について武田康廣教授に今回のジャパンエキスポをフランスにおけるマンガアニメの受容と交えた考察を渡邉昭義教授に執筆していただきました(アキューム編集部)

ジャパンエキスポジャパンエキスポ

ジャパンエキスポと京都市ブースの様子 | 武田 康廣

2019年7月4日~7日にフランスパリで開催されたジャパンエキスポに参加してきましたもちろん京都コンピュータ学院京都情報大学院大学の一員として今回の参加が今までと違うのは京都市が3年ぶりに出展しその1コーナーにKCGが出展したということです

KCGブースにコスプレイヤーが訪れました。KCGブースにコスプレイヤーが訪れました
多くの来客でにぎわう京都市ブース多くの来客でにぎわう京都市ブース

京都市のブースはいわゆる合同ブースであり他にはゲーム会社展示や和菓子実演販売太秦映画村からは殺陣実演など京都ならではの展示やイベントが催されました

今回のテーマは「本物の京都を見せる」でしたなぜそのようなテーマなのかそれは僕武田が2年前の2017年のジャパンエキスポに初めて参加した時に遡ります

初めてのジャパンエキスポはその規模の大きさに驚きました催されているその全てが日本をテーマとしたものでマンガアニメゲームというブームに乗ったものだけでなく日本文化の隅から隅までが展示され実演され販売されています「これは凄いイベントだな」が一番の印象でしたそして4日間のイベントを自分の仕事の合間に見て回りましたそしてわかったことがありますそれは日本的なものがたくさんあるもちろん日本からわざわざ持ってきて展示されているものも多くあり日本人や地元のフランス人が演じているものも多い日本から来ているアイドルやコスプレイヤー漫画家アニメ監督などです

模造刀など販売されています。模造刀など販売されています

しかしそれらの一部以外は何か違うのです特に色々な展示や販売されているものが日本ぽいけどコピーのような感じで偽物とまでは言わないが本物感が無い

なんだろうこの隔靴掻痒な感じはとマンガやアニメゲームは本物であるし海賊商品はないだからそのへんは関係ありません

徐々にわかったのは日本ぽい雰囲気の多くは「和」の表現その「和」の中心である「京都」っぽさが薄いのですいわゆる「なんちゃって京都」なのです

なので今回の京都市のブースのテーマは「本物の京都を見せる」と考えたのですそれを元に京都市に企画提案し少しだけ聞いてもらえました結局は予算の関係か徹底不足なのか「本物の京都を見せる」感は薄かったのが僕の印象でしたでもその中で光ったのは太秦映画村から来てもらった殺陣師の方々の殺陣と一般参加者と一緒の殺陣と撮影これは多くの参加者が楽しんでいました舞台も近く目の前で刀が舞うこれはなかなか日本にいても体験できない見ている僕も楽しかった

京都市ブース 殺陣のショーは大人気。京都市ブース 殺陣のショーは大人気

日本から大学や専門学校も出展していたようですがあまり目立っていませんでしたKCGも今回は1コーナーだったのであまり目立たなかったのが残念です考えれば学校のブースがそんなに目立つことは難しいですよね

CLAMPはフランスでも人気です。CLAMPはフランスでも人気です

ジャパンエキスポ自体ではマンガのブースが非常に多くゲームのブースが一層広く大きかった残念なことは3年前にはたくさんあったアニメ関係のブースが今回は殆ど無かったということですこれはアニメが本格的に配信が中心になったということらしい

イベントの中で一番人気は「たこ焼き」「おにぎり」「模造刀」の販売特に「たこ焼き」ブースの行列はいつまでも途切れないでもその味は残念な感じでただの丸く焼いた小麦粉でした「たこ焼き」は僕に焼かせろと思いましたおまけに高かったしね「おにぎり」はツナマヨオンリーでそれ以外は食べられないそうですおまけに肝心のノリは食べない人が多く捨てていましたなんでだ

とはいえジャパンエキスポの参加者は多く年齢も幅広い家族連れもいましたコスプレも家族でが当たり前すごく楽しんでいましたこんな楽しいイベントを日本が好きで好きで仕方がない人たちが主催しそして参加してくれていますだから僕たちも思いっきり楽しい日本を京都を見せなくてはいけないと考えるのでした

ビジネスチャンスもこのあたりにあると思いました

フォトスペースでシックなコスプレイヤーに出会いました。フォトスペースでシックなコスプレイヤーに出会いました

ジャパンエキスポとフランスにおけるマンガアニメの受容について | 渡邉 昭義

ジャパンエキスポは2000年6月に第1回が開催されそのときの来場者数は3200人ということですが急速に来場者数が増え2008年の第9回で13万人を超えたくさんの日本好きの集まる海外イベントとして日本でも有名になり最近はやや横ばいですが毎回20万人以上を集めるイベントとして定着しました今年のジャパンエキスポの来場者数は4日間で約25万2千人で過去最高を記録しました出展ブース数は798(日本からのブース234)でこれも今までの記録を更新しました

主催者によると今回のテーマは『アニバーサリー』と『未来』でした

20周年記念コーナーが設けられ毎年作られるイメージイラストがずらりと展示されていたり過去のゲストのパネルなどが飾られていました

今年は第20回ということで多くのゲストが呼ばれていましたが特にマンガ名誉ゲストして永井豪が呼ばれスペシャルゲストとして松本零士が呼ばれていたのはフランスにおいてマンガアニメが初めてフランスで受け入れられジャパンエキスポが開催されるきっかけを振り返る意味で重要です

永井豪はデビューから50年を超えた漫画家ですがフランスで『UFOロボグレンダイザー(フランス名Goldrak)』が1970年代末にテレビ放映されて絶大な人気となりましたテレビ局が少ないこともありましたが視聴率100%を記録したという伝説のアニメです日本ではマジンガーZの方がずっと有名ですがグレンダイザーはジャパンエキスポ開催のきっかけのシンボルともいえる作品です会場では永井豪の特設ブースが作られ複製原画などのパネルやロボットの像などで画業50年の歩みを振り返っていました名誉ゲストとしてジャパンエキスポの会場で登壇した永井豪はフランス政府より芸術文化勲章「シュバリエ(騎士)」を授与されました

松本零士は日本では『銀河鉄道999』などで有名な漫画家ですがフランスでは『宇宙海賊キャプテンハーロック(フランス語名CAPITAINE ALBATOR)』が大人気で2013年に公開された3DCG版の『キャプテンハーロック -SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-』はフランスで日本以上の興行収入を挙げました今年のジャパンエキスポでは松本零士のフランス語話者のウェブリングの展示がありました松本零士の生い立ちや様々な作品紹介のパネルとともにアーチストOlivier Duhectが作成した2メートルのアルカディア号が展示されていましたアルカディア号には松本零士のサインがされていました

宇宙海賊キャプテンハーロック(フランス語名 CAPITAINE ALBATOR)は,フランスで今なお人気です。宇宙海賊キャプテンハーロック(フランス語名 CAPITAINE ALBATOR)はフランスで今なお人気です

2019年はガンダムテレビ放映40周年の年でありガンダムについてはジャパンエキスポ会場の入り口にガンダムの大きな像がおかれ40周年記念ブースが作られてガンダムの歩みをパネルとプラモデルのジオラマなどの展示で振り返っていました名誉アニメゲストとして招かれた富野由悠季は劇場版『ガンダム Gのレコンギスタ I』の世界初上映で舞台挨拶をしていましたブースでは富野監督の担当した「ザンボット3」なども触れられていました実はガンダムは欧米ではあまり人気がありませんフランスではAssociation pour l'essor de l'univers Gundam(ガンダムの世界を世に広める会)という非営利団体があり2011年から2016年までジャパンエキスポにブース出展していたのですが最近の活動は限定的のようですもちろんフランスでもガンプラなどのグッズは大人気で人だかりができていましたが人気があるのはガンダムWあるいはガンダムSEED以降のガンダムで初代ガンダムやZガンダムなどの古いガンダムはあまり知られておらず人気がありませんジャパンエキスポ内のコスプレでアムロやシャアのような人物は見たことがなくガンダムそのもののコスプレがたまにあるくらいです

ハリウッド映画のコスプレもたくさんいます。ハリウッド映画のコスプレもたくさんいます
ガンダムウィングのコスプレガンダムウィングのコスプレ

フランスで日本のマンガアニメが大人気という話はよく聞きますしジャパンエキスポ会場に行けば多数見かけるマンガアニメキャラクターのコスプレやグッズを買い集める人たちステージで盛り上がる人たちなど熱気を直接感じることができますただ日本のマンガアニメのファンからすると少しずれた印象を受けると思いますもちろん例えばデパートにおけるフランス展が必ずしもフランスを代表するわけでもないようにジャパンエキスポに訪れる人が日本のマンガアニメファンを代表するわけでないという前提でありますがそれは日本人の感覚でいうと人気のある作品の数が少ない深夜アニメがあまりないということです二度の大戦の記憶がいまだ残るところでガールズアンドパンツァーはタブー視されているのかしらとかハリウッド映画ディズニー作品のコスプレはぴったりはまっても「ラブライブ」や「アイドルマスター」などは似合う人はあまりいないのではと思います偏見かもしれませんが以前Anima Festival Asia インドネシアに行った時に比べるとそう感じるのです

和風スペースでまったりとした雰囲気のコスプイヤーたち。和風スペースでまったりとした雰囲気のコスプイヤーたち

さて日本のアニメはフランスで本当にたくさん見られているのでしょうか本当のところはどうなのでしょうかJETROの調査結果から紹介します現在フランスでは日本のアニメがテレビ放送されることはほとんどありません法律で外国の番組をたくさん流してはいけないとか理由はあるようですが日本のアニメがフランスで大人気という話が信じられないほど少ないです実際私が滞在中にテレビを見たときは子供向けのアニメはたくさん放映されていましたが日本のアニメは見ることができませんでした現在では主に民放のTFXという局が日本のアニメを放映しているようです「ナルト」「ドラゴンボール超」や「僕のヒーローアカデミア」などの他「キャプテン翼」や「シティーハンター(フランス名 Nicky Larson)」など古い作品の再放送もしています「シティーハンター」はフランスで実写映画が作られ大ヒットしましたネットではクランチロールネットフリックスとJ‒ONEがほとんどのようですJ‒ONEはアニメについては日本専門ですがフランスのテレビ放送事業者は年間放映番組の60%以上を欧州番組としうち40%以上は仏語を原語とする番組でなければならないという規則があるので日本文化紹介のフランス語の番組をたくさん流しているようですアニメ作品のラインアップは「ナルト」を中心に多く取り揃えていますしかし日本のアニメファンからするといささか偏っているように思われますジャパンエキスポではマンガ単行本アニメDVD/BDなど販売していましたがフランスではDVD自体売れずあくまでファンがグッズの一種として購入するようです画質が違うのかもしれませんが昔のアニメのDVDをかなり安く売っているのを見かけましたちなみにフランスではDVDはリージョンコードが日本と同じですがPALですのでパソコンなどで再生しなければならずBDはリージョンコードが異なります

コスプレイヤーは気さくにポーズを取ってくれます。コスプレイヤーは気さくにポーズを取ってくれます

アニメのストリーム動画配信はAnime Digital Network(ADN)CrunchyrollWakanimなどがプラットフォームですアニメのブース自体はかなり少なくなりましたがCrunchyrollのブースは目立っていました

少女マンガもありますしBLのブースがありました全世界共通なのかわかりませんが少なくともフランスに腐女子がたくさんいることに気づきました

純粋に日本のものでないマンガやゲームもありました

持ち込むのも歩くのも大変そうですが,にこやかにポーズを取ってくれます。持ち込むのも歩くのも大変そうですがにこやかにポーズを取ってくれます

最近で有名なのはトニーヴァレントが作ったバンドデシネであるラディアンです日本でコミックが発売され2019年初めにNHKがアニメを作って放映されたラディアンは第2期が10月から放映されるとあって人気でしたすぐ近くにラディアンのブースがあって作者のサイン会が行われていましたフェアリーテイルなどの影響を強く受けながらどこか日本のコミックと違う味のあるラディアンが日本でも成功を収めているとなればフランスの日本マンガアニメファンも誇らしいのではないでしょうかゲームについても日本の影響を強く受けたゲームであるKROSMOZシリーズが10周年記念としてブースができて美術資料などが展示されていましたこれからはフランスでも受けそうな日本のコンテンツをフランス向けにローカライズするだけでなくフランスで受けそうな(そして日本ではマイナーな)日本のクリエイターを発掘して輸出する方向性もあります例えばキューン(Ki-oon)で作品を発売しているTAKIZAKI Mamiyaなどがいますキューンが日本コンテンツを輸入するための実績作りだったかもしれませんが継続的に漫画家を探しているようですしひょっとすると日本の漫画家がフランスでマンガを発表しそれから日本に逆輸入されるものも出てくるかもしれません

ジャパンエキスポの印象 | 渡邉 昭義

カメラの前でポーズをとるコスプレイヤーカメラの前でポーズをとるコスプレイヤー

私にとっては201420172019年と3度目のジャパンエキスポでありますが喜々としてコスプレしたりグッズを買いまくったりライブを見て日本語で歌ったりというフランス人(と近隣諸国の人)が溢れかえって毎回圧倒されますしかし私自身はずっと違和感があります私はマンガアニメをたくさん知っているわけではありませんがなんだかコスプレが少数の有名な作品ばかりでフランスで人気のある作品とない作品の差が激しいように思います「日本最高」と言ってくれるのはうれしいけれど日本のモノを無条件にいいものとするような人たちとその人たちに日本のモノコトを売ろうとする日本の企業自治体との関係はよいのかもしれませんがなんとなく釈然としないものがあります私が第一世代のオタクだからなのでしょうかトリスタンブルネという人はジャパンエキスポにおける(過度な)スタンダード化と(オタクの)特権性の薄まりを嘆いていますがたぶん似通った気分であろうと思いますジャパンエキスポの入場者の主体となっているのは1990年代以降の人たちであり日本国内のアニメの世代間の落差とも共通するところはあるのかもしれませんが国の差なのか世代の差なのかわからないところもあります

付録「大英博物館 ・ マンガ展」 | 武田 康廣

ジャパンエキスポが終わった後KCGのメンバーとは別れて僕は一人でロンドンに向かった初めてのイギリス上陸であるせっかくなのでパリから電車で移動した3時間かからずにロンドンに到着そのままホテルにチェックイン翌日は大英博物館の開館前から博物館前のスタバでラテを飲みながら待機開館直後に入場しマンガ展会場にまっしぐらマンガ展の感想は「素晴らしい」の一言に尽きる

最新の作品から昔の作品までコスプレ文化やコミケにまで言及する幅広い展示特に星野之宣氏の宗像教授シリーズの展示は面白かったなにせこのシリーズの最終回は大英博物館が舞台となっている宗像教授と同じ道を辿って博物館内を歩くのは楽しかった

展示方法も大胆で壁に展示しているだけではない立体的に上から吊っていたり奥行があったりもちろん原稿そのものを展示している印刷物でない鉛筆の線がわかる作家の息遣いがわかるもちろん複製原画なのだと思うけどそれでも限りなく本物が見られるのは素晴らしい体験である

作品によってはフィギュアを展示していた日本から運んでくるのは大変だっただろうな壁際にも作品が展示されキャラクターがパネルで大きく貼ってあるこれも見ごたえがあった

あまりにも多くの作品を展示していたがそれでもマンガの全てを網羅できるわけがないしかしエポックな作家作品を展示し分類しているのは素晴らしく日本国内でもできればいいのになあと思うことしきりであった

マンガ展入口マンガ展入口
参考文献
  • 第20回Japan Expo開催報告2019年
  • 日本貿易振興機構JETRO: 『英国フランスにおけるコンテンツ産業調査』2019年
  • トリスタンブルネ: 『水曜日のアニメが待ち遠しい~フランス人から見た日本サブカルチャーの魅力を解き明かす』成文堂新光社2015年
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武田 康廣
Yasuhiro Takeda
  • 京都情報大学院大学 教授
  • 株式会社GAINAX京都代表取締役
  • 日本SF作家クラブ会員宇宙作家クラブ会員
  • 『ふしぎの海のナディア』『天元突破グレンラガン』をはじめ日本を代表する数々のアニメーションを製作する株式会社ガイナックスで設立当初より取締役を務める

上記の肩書経歴等はアキューム26-27号発刊当時のものです

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渡邉 昭義
Akiyoshi Watanabe
  • 京都情報大学院大学教授
  • 北海道大学工学士京都大学大学院修士課程修了(応用システム科学専攻)工学修士
  • 元ナカミチ株式会社勤務

上記の肩書経歴等はアキューム26-27号発刊当時のものです