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Accumu 最新号・Vol.26-27

次代を担うIT人材育成へ活発に産学連携講義を開講

日本ユニシス-企業研究者によるITの最新事例

ガイナックス京都-アニメ企画・制作の具体的な方法論

産学が連携して次代を担うIT人材を育成しようと,京都情報大学院大学(KCGI)は応用情報分野の最先端企業と共同による講義やゼミを開講している。2019年度秋学期には大手ITサービス企業の日本ユニシス株式会社(本社:東京都江東区,平岡昭良社長,東証1部上場)の総合技術研究所(羽田昭裕所長)とゼミ「応用情報学最先端A」を,武田康廣教授が代表取締役を務める株式会社ガイナックス京都などと連続講義「実践アニメ製作論」を相次いで開講。学生たちは第一線で活躍中の講師陣と触れ合い,議論を深めながら,高度な実践能力と創造性を磨いている。

応用情報学最先端

若者の柔軟な発想・創造力を新たなイノベーションに

日本ユニシスとの共同ゼミ「応用情報学最先端A」は2019年11月から翌2020年1月まで8回にわたって京都駅前サテライトで開講。「企業研究者によるITの最新事例紹介」を掲げ,KCGI教員,同社研究員,学生の交流を通じて,未来のIT業界を担う若者の柔軟な発想・創造力を新たなイノベーションにつなげることを狙いとした。

同研究所二〇四六室長の秋山功KCGI教授,同研究所研究員でKCGグループの「未来環境ラボ」にも中心となって関わる坂本啓法KCGI准教授に加え,同研究所の研究員ら7名がそれぞれのテーマで行うオムニバス講義形式で,学生のレベルに合わせてさまざまなITの基礎的な部分を説明しつつ,最先端の実例を紹介した。これにより,学生たちが「自分ならこの技術をどう使って社会全体にイノベーションをもたらすか」と応用を考え,自発的に技術に関するより深い部分を調査していくことを目指した。

日本ユニシスとの共同ゼミ「応用情報学最先端A」でUIについて説明する坂本KCGI准教授(京都駅前サテライト)日本ユニシスとの共同ゼミ「応用情報学最先端A」でUIについて説明する坂本KCGI准教授(京都駅前サテライト)

ユーザインタフェース(UI)などに関する研究開発を手掛ける坂本准教授の担当回では,UIの区分,特にタッチ,ペン(手書き文字認識),音声,空中ジェスチャ,VR,ARなどによるNUI(ナチュラル・ユーザインタフェース)について,代表的な関連技術・製品とともに解説された。具体例として坂本准教授が開発した「空中における文字入力・文字認識」を利用した書道ソフトなどの実物が紹介され,赤外線センサーを活用し,空中で筆を振るって文字を書き認識させる実体験に,学生たちは興奮した様子だった。

「空中における文字入力・文字認識」を利用した書道ソフトを体験する学生「空中における文字入力・文字認識」を利用した書道ソフトを体験する学生

坂本准教授は,日常的に目に入るものでも立ち止まって少し深く考え,「自身が持っている技術とマッチングできるところがないか」という視点から検討することが習慣になっており,それが,アイデアが下りてくる秘訣だと語る。2015年以来,菅野創氏とやんツー氏のアーティストユニットの作品制作に技術協力として参加し,2016年にもあいちトリエンナーレで同ユニットによる「Asemic Languages(形骸化する言語)」という「入力した筆跡データに近い,実在しない新たな筆跡データを生成して機械が描く」作品の制作に参加。最先端の現代美術の展覧会が多く開かれる京都芸術センター(京都市中京区)などに足を運びメディアアートに触れることも,最先端のITを社会への応用に結び付けるセンスを磨くのに役立つという。

最先端のITに触れることができる最先端のITに触れることができる

「未来環境ラボ」は坂本准教授が定期的に駐在し,学生や学外の人材とともに特別講座や共同プロジェクトなどを通じて交流を深めている。坂本准教授は産学連携の意義について「京都コンピュータ学院(KCG)の学生の中でも高校の技術系学科の出身者や,一度社会人経験をした後にKCGIに入学してきた学生は特に意識が高い人が多く,いい観点から質問をしてくれるのでとても刺激になる。未来環境ラボが人と人とが交流する場であるのと同様,学生には『応用情報学最先端A』を通じて学内外のさまざまな人と知り合い,それをきっかけに情報交換やコラボレーションを進め,新しいイノベーションを起こしていってほしい。本ゼミでは各講師からいろいろな新しい情報が得られるはずなので,それをもとに今後の大学院での研究を深めていってもらえたら」と期待を込めて語る。

実践アニメ製作論

文化の都・京都で学ぶ意義
ガイナックス京都などと共同の連続講義「実践アニメ製作論」でアニメ制作時の方法論を説明する赤井孝美・米子ガイナックス株式会社社長(京都本校 百万遍キャンパス)ガイナックス京都などと共同の連続講義「実践アニメ製作論」でアニメ制作時の方法論を説明する赤井孝美・米子ガイナックス株式会社社長(京都本校 百万遍キャンパス)

ガイナックス京都などと共同の連続講義「実践アニメ製作論」は2019年10月から翌2020年2月まで12回にわたって京都本校 百万遍キャンパスで開講。武田教授のほか,プロデューサーとして「天元突破グレンラガン」などを手掛けた赤井孝美・米子ガイナックス株式会社社長らが講師として登壇し,アニメの企画・制作時の具体的な方法論などについて,実際のアニメ業界での実例を示して解説した。

赤井社長の担当回では,バレーボールが題材の新作アニメの企画を想定し,補欠を含めたチームメイト8名にマネージャーが男女2名,監督1名,選手の家族が16名,応援団が最低2名と,味方だけで少なくとも29名のキャラクターが必要になると具体的に設定。1クール13本のアニメが仮にヒットすれば,第2シーズンが13本制作されるので,物語を盛り上げるために,最低でも2~3の強豪チームの敵,約30名を登場させる必要があり,計60名近くのキャラクターを描き分ける必要があることが説明された。

さまざまなキャラクターをその場で描き分け創造するさまざまなキャラクターをその場で描き分け創造する

赤井社長は「高校のスポーツものでは,チームメンバーの性別・年齢・体型はほぼ同じ。描き分けるのがいちばん大変なジャンルで,そのためにはテクニックが必要です」とアニメ制作の裏にある苦労を明かし,「主人公とライバルの関係や,他のキャラクターごとの性格や背景などをそれぞれ『対照』させながらキャラクターを創造することが大切だ」と,実際にホワイトボードに流麗なキャラクターのイラストを描き分けながら力説した。講義後には,何人もの学生が熱心に質問をし,特に自作のイラストを持参して効果的な絵の練習方法について質問した学生に対し,赤井社長は「描けば描くほど上手になるから,輪郭線だけで素早く対象をとらえて描くクロッキーを中心にひたすら絵を描くこと。京都には街や鴨川などを散策している国内外の老若男女も多く,そうした人々をモデルにできるので,絵の勉強をするにはとてもいい場所だよ」と丁寧に答えていた。

既存のアニメキャラクターのイラストも既存のアニメキャラクターのイラストも

赤井社長は産学連携の意義について「アニメ制作会社間での人材引き抜きが日常茶飯事で,優秀なアニメ人材を一カ所でじっくり育成できない東京と違い,丁寧に人材一人ひとりを育てて個性あるアニメを作る制作会社が地方には多く,京都はその代表格。そんな京都でアニメについて教えるのはとても大事なこと。さらに,うれしいことに受講生には外国人留学生もいるので,そこにもまた日本の文化としてのアニメーションを,文化の都である京都で教えることに意義があると言える」と強調。「アニメーション業界は今,過渡期にあり,ITの発達なども相まって『世界は映像を求めている』と強く感じる。これからは東京一極集中でなく,地方で独立した個人作家が,ITを活用してアニメを制作・発信する時代が必ず来るので,講義を通じてそのような人材を育てていきたい」と力を込める。