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Accumu Vol.18

コンピュータ博物館の設立について

株式会社東芝 執行役常務 関西支社長 川下 史朗氏

この度の「コンピュータ博物館」の設立構想に関し,「近代科学技術史」を考える上で欠くことのできない偉業であり,IT機器メーカーとしてその主旨に賛同し以下の通り設立を推薦いたします。

昨今,情報技術の進化やインフラ充実に伴い,家庭にも当たり前の様に普及致しましたコンピュータは,日本でも生誕50年を迎えました。 歴史を振り返れば1642年,仏のブレーズ・パスカルが世界初の加・減算のみの機械式計算機をこの世に誕生させて以来,世界各国に大きな影響を与え,ハードウェア及びソフトウェアは近年の急激な技術発展により確実に進化をしてまいりました。

東芝も1970年代のオフコン時代には,「TOSBAC シリーズ」を,1980年代には「日本語ワードプロセッサ」を世に送り出しました。 当時平均的給与が月額 7万7千円の時代に数百万円の大きな投資ではありましたが,効率化・電算化・日本語処理化の上昇に相まって多くのお客様にご愛用頂きました。 なかでも今回展示予定の「TOSBAC-3400」はマイクロプログラム方式の科学計算用として高い性能を有したコンピュータで時代をリードし,「日本語ワープロセッサ JW-10」は初めて複雑な日本語処理を可能にした製品であり,今回の展示にふさわしい近代遺産と言えます。

以後,高度情報化が急速に進む中でコンピュータは更に分散化・小型化の時代を迎え,1985年に東芝が世界初のラップトップPC「T1100」を欧州で発売し,ユビキタス「いつでも,だれでも,どこでも,コンピュータを持ち歩く」という願いが,「劇的なノートPCの歴史」を作る事になりました。その後も「DynaBook」として常に最先端のPC作りにこだわり続け24年後にはSSD(フラッシュメモリ)搭載で,重さ約800グラム,薄さ20ミリという画期的な製品を世に送り出す事も出来ました。

今回の「コンピュータ博物館」は,海外は数か所に存在しておりますが,日本はまだまだ,その分野は遅れております。「温故知新」。後世に情報技術の歴史的な事実を正しく伝え,記録など参考文献だけでなく,実際のハードウェアの変遷を直接目にする事が可能となる施設の存在が必要と言えます。今後もコンピュータは,人間や家庭生活を豊かにし社会の発展に寄与し続けると確信致します。その背景に「先端技術の開発」「地球環境変化の計算」や「新薬の開発」などでのコンピュータ利用が挙げられます。 その中でハードウェアやソフトウェアの開発を行うのは「人」であり,その「人(材)」を育成することが肝要となります。経済のグローバル化に伴い,厳しい環境下にある日本は,その競争に備えて優秀な「人材育成」が重要であり,京都コンピュータ学院殿の「教育理念」の中にありますように,「知性・感性ともに優れた人格の育成」,「創造的能力の養成」,また「複眼視的思考力の養成」のきっかけ作りともなる「コンピュータ博物館」の設立構想は,正に時宜を得たものであり,必ずや業界や市場に新風を吹き込み,更に「新しい歴史」を生むものと推察いたします。

最後に,次世代の主役である若者が,正しい情報知識と技術を習得頂くためにも,早期に本計画が実現できることを願っております。

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川下 史朗
Shirou Kawashita
  • 立命館大学経済学部卒
  • 1972年,株式会社東芝入社
  • 関西支社副支社長,中部支社長などを経て2008年6月から 執行役常務(関西支社長)
  • 2009年10月から,在大阪カザフスタン共和国名誉領事も務める

上記の肩書・経歴等はアキューム18号発刊当時のものです。