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Accumu Vol.7-8

海外コンピュータ教育支援活動 メキシコからの研修生を迎えて

京都コンピュータ学院技術教育開発部長

アイオワ大学Ph.D./前金沢工業大学教授

寺下 陽一

メキシコ国旗
メキシコ国旗

読者の皆さんは「メキシコ」と聞いて何を連想するでしょうか? 「サボテンとソンブレロの国」,「マリアッチと民族舞踊」,「マヤ文明」,「カリブ海のリゾート地カンクン」,はては「美人のセニョリータ」等々,いろいろ考えつくでしょうが,いずれもロマンチックなイメージです。どういうものか「技術」だとか「工業」等といった発想は少ないのではないでしょうか。

長谷川学院長,研修担当教員らとの歓迎夕食会(左京区のメキシコ料理店にて)
長谷川学院長,研修担当教員らとの歓迎夕食会
(左京区のメキシコ料理店にて)

そのメキシコから,2人の女性コンピュータ技術者が本学院に研修のために来訪しました。JICAによる日本・メキシコ交流プログラムの一環として,本学院でマルチメディア技術を修得するため,1995年5月から同年11月まで京都に滞在し,主として鴨川校で研修に励みました。

2人は想像どおりのメキシコ美人で,名は,エミリアさん,ロレナさんといいます。フルネームは Maria Emilia Rios Guzman, Lorena Garza Salinas と相当長いものです。話によるとメキシコ(およびその他のスペイン語圏)では正式名は普通,「名」,「クリスチャン名」,「母親の姓」,「父親の姓」,の四つから成っており,略式では,「名」か「クリスチャン名」のどちらかと「父親の姓」の二つを用いるそうです。姓と名の二つだけが普通である現代日本に生きる我々から見ると煩雑のようではありますが,母方の姓が判るという便利さもあるし,また何といっても長い名前には格式が感じられるものではないでしょうか。

学院親睦会のバーベキュー大会にて(八瀬の河原にて)
学院親睦会のバーベキュー大会にて
(八瀬の河原にて)

2人とも出身地はメキシコの北東,アメリカのテキサス州に近いモンテレーという都市であり,同地に生まれ,同地のモンテレー大学を2年前に卒業(専攻:コンピュータ工学)したとのこと。モンテレーは人口約100万人で,メキシコ随一の工業都市です。筆者は一度モンテレー市を訪問する機会がありましたが,工業都市という風情が強く,「サボテン,ソンブレロ」のイメージからは少々遠いようでありました。エミリアさんは同市のCEMEXという会社のコンピュータ部門,ロレナさんは出身のモンテレー大学コンピュータ室に勤務しており,ともに休職して日本へ勉強に来たとのことです。

本学院における研修は,初め主として洛北校で,

(1)ハードウェア関係,その後は鴨川校で

(2)マルチメディア開発技法と関連のソフトウェア・ツール,後半2ヵ月余は課題研修として

(3)マルチメディア・データベース作品の設計と製作に取り組みました。

(1)のハードウェアの研修では洛北校の教員の指導の下にパソコンのハードウェアの基礎を勉強した後,その後の研修で用いるための高性能マルチメディア・パソコンの組み立てを行いました。ハイエンドの Pentium プロセッサに,CD-ROM,オーディオ,ビデオ(取り込み/再生),ネットワーク機能の付いた本格的なものです。

(3)の課題研修については,来訪した外国人に対して関西地区の情報(地理,歴史,文化,交通,名所旧跡等)を英語で解説するマルチメディア・データベースを製作することになりました。このためには,まず日本に関する一般的な勉強から始まり,図書館通い,観光案内所などでの資料の収集,写真撮影やビデオの収録,さらには録音と,コンピュータに入る前段階の作業に相当な時間と労力を費やしました。次に,これらの素材をハイパーテキスト・データベースとしてどのように配置し,どのようなリンク付けをするか,という最も重要な設計作業に入り,画面のデザインにも種々の工夫が凝らされました。

JICA大阪国際センターにおける研修成果発表会で,開発したマルチメディア作品をデモするエミリアさん
JICA大阪国際センターにおける研修成果発表会で,
開発したマルチメディア作品をデモするエミリアさん

システム開発(マルチメディア・データベース)の基本ツールとしては,Asymetrix社の ToolBook を用い,プラットフォームは Windows (最終的にはバージョン95)とすることにしましたが,途中の過程では Adobe社の Photoshop や Premiere等を用いて,静止画像や動画像(ビデオ)の読み込みや編集を行い,また必要に応じてマッキントッシュ機を用いたりしました。この間の2人の仕事ぶりは見事なものでありました。コンピュータに対する技術の理解力も相当なものでしたが,仕事に対する熱意は非常なもので2人のチームワークもよく,研修の最終の段階では夜8時,9時まで頑張ることもしばしばでした。筆者は,この数年多くのメキシコからの研修生と接する機会がありましたが,エミリアさん,ロレナさんはその中でもピカ1で,指導する方にとっても特にやりがいのあるグループでした。

JICA大阪国際センターにおける研修成果発表会で,開発したマルチメディア作品をデモするロレナさん
JICA大阪国際センターにおける研修成果発表会で,
開発したマルチメディア作品をデモするロレナさん

このようにして完成したマルチメディア・データベースは「Interactive Tour of Kansai」と名付けられました。メディアクリップ(音声,画像,ビデオなどのファイル)の数が数百,全体の大きさが500メガバイトという大作で,CD-ROMに収容されています。まず日本全体に関する文化や習慣の説明や,簡単な日本語の入門(ディジタル録音を聞きながらの発音練習も出来る)から始まり,関西地区の各都市の紹介に入ります。中でも京都は特に詳しい解説がありますが,例えば祇園祭などは自分達で録画・録音したファイルが使われており,また京都市の地図も自作のもので市バスの路線などもマウスのクリックで分かるようになっています。そして主だった観光ポイントについてはやはりマウスのクリックだけで詳しい情報のあるページへ跳んでくれるという,いわゆるハイパーテキストの手法がフルに使われています。

この作品は,2人の研修成果発表会(1995年11月16日)に,国際協力事業団の大阪国際センターで同センター関係者や他の研修生の前でデモがなされ,非常な好評を得ました。指導を担当した我々もすこぶる鼻の高い思いをしました。

送別パーティでの2人(記念品としてKCGトレーナーが贈られた)
送別パーティでの2人
(記念品としてKCGトレーナーが贈られた)

いわゆる発展途上と言われる国々からの研修生のお世話をしていると,それらの国についての知識が得られ,非常に勉強になります。ややもすると欧米一辺倒になりがちな我々の世界観がより広くなり,バランスのとれた国際感覚が得られるのではないでしょうか。

筆者もメキシコの研修生の皆さんからはいろいろなことを教えてもらいましたが,その中でとって置きの情報をひとつ。有名な「マルガリータ」というカクテルの作り方です。主役はもちろんメキシコ特産の蒸留酒テキーラで,これとキュラソー(青色のものが良いそうです)というリキュール,そしてレモンのジュースをほぼ等分に合わせ,氷をいれてシェーカーでよく振ります。飲む時はグラスの縁にたっぷり塩をつけることになっています。それでは皆さん,「サルート(乾杯)!」

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寺下 陽一
Yoichi Terashita
  • 京都大学理学部宇宙物理学科卒業
  • 米国アイオワ大学大学院に留学,Ph.D.取得
  • アイオワ大学講師,ペンシルバニア州立大学講師を経て,帰国後,KCG創立グループの一員として日本初の情報処理技術教育カリキュラムを作成
  • その後,金沢工業大学に赴任,同大学情報処理工学科の創設に携わり,主任教授,同大学情報処理サービスセンター長を務める
  • 金沢工業大学名誉教授
  • 永らく私立大学情報系教育の振興に貢献
  • 元社団法人私立大学情報教育協会理事
  • JICA(旧国際協力事業団)専門家(情報工学)としてタイ国に3回派遣される
  • 1995年4月本学院に再就任
  • 京都コンピュータ学院洛北校校長,京都コンピュータ学院国際業務部長を経て,2004年4月の京都情報大学院大学の開学に伴い,京都情報大学院大学応用情報技術研究科ウェブビジネス技術専攻主任に就任
  • 現在,京都情報大学院大学副学長

上記の肩書・経歴等はアキューム15号発刊当時のものです。