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Accumu Vol.2

現代中国 コンピュータ産業の現状と展望

吉林大学教授 元京都コンピュータ学院講師 玄 光均

1946年2月に世界初の電子計算機がアメリカで誕生して以来すでに45年がすぎた。現在の計算機産業の規模から見るとアメリカが世界で第一番目で,日本が第二番目になる。全世界の各国計算機技術は飛躍的に発展し,今,世界は情報時代にはいっている。

中国においてはコンピュータ産業は,1956年からスタートしており,すでに35年が経過している。スタートもあまり遅くはないし,歴史的に見てもあまり短くはないにもかかわらず,中国のコンピュータ産業が立ち遅れているのは50年代,60年代と,中国のコンピュータ産業が閉鎖的であったためである。しかし,1978年からは国の開放政策が始められ,コンピュータ産業も徐々に発展し,80年代にはいってからの発展は目ざましい。言わば本格的にコンピュータ産業が勃興したのである。

コンピュータ産業の発展はどの国においても大事な産業だと思われる。ある意味でコンピュータ産業の発展のレベルが,その国の発展のレベルのシンボルであると言える。このようにコンピュータ産業は国家の社会,経済,技術進歩などいろいろな面に大変大きな影響をあたえているのである。それゆえ,中国でも,計算機産業の発展に,現在大変力を入れているのである。

中国のコンピュータ産業の現状

中国のコンピュータ産業は科学研究,開発,製造,ソフト開発,情報処理サービス業などで構成されている。

近年,中国のコンピュータ産業は実際的な応用面を重視し,“導入,消化,開発,創新”の開放式の発展方法を実施している。

ここではそうした中国の計算機技術の発展とその応用の歴史から述べてみたいと思う。

①中国の計算機技術と産業の発展および応用の歴史。

計算機の技術的立場から見ると,中国の計算機は真空管,トランジスタ,小規模IC,中,大型ICの段階を経て,超大型ICの応用の段階に入りつつある。国際的技術レベルからすると,現在大体第3世代半の技術に相当している。

コンピュータというものの発展とその応用の面から見ると大体次のような三つの段階に分けられる。

第一段階は1958年から1970年までで,中国のコンピュータ産業の草創期である。

1958年に初の真空管計算機が作られ,その代表機としては103機と104機が挙げられる。その後1965年にはトランジスタ計算機441台が誕生したが,1970年になっても計算機の国内における保有台数はわずか462台で,計算機の市場はまだ形成されていなかった。そしてそれらコンピュータの主な応用は科学計算で国防,科学研究,教育の各部門で使われていたにすぎなかったのである。

第二段階は1970年から1980年までで,この段階が最もコンピュータ産業が発達した時期であると言える。

1971年に第3世代のIC計算機が,研究開発され,121機,X-2型機などの代表的機種が作られた。1980年は大,中型計算機の保有台数は2,928台(そのなかには輸入機が500台あまり含まれる)となった。主な応用は科学計算,データ処理,プロセス制御,などの領域で,主な応用部門は国防,科学研究,教育部門のほかに,石油,水力発電,交通,などの重要な経済部門にも利用されるようになった。このように第二段階計算機の応用範囲が拡大した時期であり,計算機市場の形成段階だったと言える。

第三段階は1981年から現在までである。

1983年頃には,中国が自国で設計し,製造した,国際レベルの超大型機”銀河”機が誕生するなど,1981年からは中国の計算機体系が初歩的段階において形成したと言える。したがって計算機の応用は早く,国民経済のいろいろな以前よりももっと広い部門と地域で使われるようになった。主な応用は科学計算,データ処理,プロセス制御,経済情報管理,企業管理,銀行管理,OA,CAD,CAM,CAIなどの領域で,応用部門としては主に国防,科学研究,教育,石油,水力発電,交通,銀行,気象観測,農業医学などである。1987年末には,全国で大,中,小型計算機の保有台数は7,772台で,1981年と比べると1.34倍の増加が見られ,パソコンの量は26.6万台で,1981年の89.3倍にも増加した。

このように,中国では今がちょうど計算機市場の成長期であり,繁栄期ともなっていると言える。

②中国の計算機産業の基本的現状

現在,中国の計算機産業の企業は全民(国営),集団,個人(私営)所有制の三つの形式があり,企業の総数は約600あまりで,職員総数は約20万あまりである。そのうち,製造企業は約150あり,職員は11万ぐらいで,ソフトと情報サービス企業は約450個あまりとなっている。中国の計算機市場は約10億元あまりである。

現在の中国の計算機産業を見ると,マイコンと小型機の開発と生産能力は基本的には整っており,大,中型計算機システムの設計方面にも,同様に基礎ができている。しかし,量的製造能力はまだまだである。

近年,中国ではコンピュータ産業の発展にしたがって,計算機企業が沢山誕生した。主な企業としては次のような企業である。

長城計算機集団会社,長江計算機(集団)聯合会社,山東浪潮情報産業集団会社,長白計算機集団会社,中環計算機集団会社,東方計算機集団会社,新潮計算機集団会社,太極計算機集団会社,華南計算機集団会社,東海計算機集団公社と紫金計算機集団公社などである。なお,計算機技術,流通およびサービス業を担っている有名な企業としては北京の海淀中関村にある四通,信通,科海,京海などの科学技術型の会社である。これらは,中国の計算機産業の繁栄と新しい発展を担っている。

現在,既に中国で開発生産している主なコンピュータ機種としては次のようなものがある。マイコンとしては0500,0600(長城,東海,浪潮,紫金など)二つのシリーズで約10種類があり,国内市場の約2/3を占めている。小型機としては,2220,2230(太極計算機集団会社),ほかに,華南と中外合弁会社の恵普(CHP)などである。中型機としては,上海の8030と8060の2種類がある。超大型機(巨型機)としては,国際先進レベルをもつ銀河機がある。近年には,国際先進レベルをもつ計算機レーザ漢字編集(排版)システムと漢文情報処理システムなど中国の特徴をもった製品も開発生産されている。

現在,中国では大,中,小型計算機およびパソコンの保有台数の各部門における分布比例は次のようになっている。科学研究企業では31.5%,工砿企業は25.7%,各種政府機関は30.4%,大学は12.4%をそれぞれ占めている。

コンピュータを伝統産業の製造にも利用するなど,工業,農業,商業,金融,交通など国民経済のいろいろな分野で利用が進んでいる。主な応用分野の一つである銀行の例を挙げると,現在,全国の銀行では,大,中,小型計算機が200台ぐらい,パソコンは13,000台ぐらいが稼働している。大型機としては,AMDAHL5830,5890/300E,470;DPS7000/50,A10DX,A3;中型機としてはIBM4381,日立M-150,M-240である。1990年には中国の50以上の,中都市の銀行で使用される計算機システムは次のようになりそうである。大型機AMDAHL5890/400Eが4台,IBM3090/400Eが24台,日立M640が36台および中型機VAX8600,M630などが1,260台,マイコン(多ユーザ)10,600台,ATMが5,800台,端末が36,000台,総投資は約6億ドルである。2000年になると中国の銀行の計算機の総投資額は30億ドル~50億ドルになると予想されている。

その他に,北京机機工業自動化研究所で1985年につくったPJ-1型塗装用ロボットが北京吉普自動車工場で車の塗装作業に使用されており,1989年に天津市机機研究所でも,JIR-1型工業用ロボットを製造した。このロボットの動作領域は2.91㎡,直面水平作業長さは2.26m,本体回転は240度,最大運行スピードは1m/秒,負荷は10kgである。

なお,中国が自分で設計製造した長城計算機漢文処理システムが,現在国?細約総部で使用されているらしい(1989年12月)。

現在,中国で最大の計算機応用システムは,石油地質観察データ処理システムである。これは,国産超大型機”銀河”をホストとして,2台の大型機と何台かの小型機およびマイコンで構成されている。これは,中国の計算機応用のレベルがだんだん高くなることを表している。

現在,中国の計算機市場を見ると,大,中型機は大部分が外国製で,小型機は70~80%が外国製で,マイコンは30%が外国製である。今後,マイコンと専用計算機(例えば銀行専用機,商業専用機など),および端末の需要がもっと高くなるであろう。世界のソフト市場を見ると,トップはやはりアメリカのソフト市場で規模が200億ドルある(1988年)。次は日本ソフト市場で規模が177億ドルである。中国ではソフト人員は約35,000人あまりで,ソフト研究を重視して,研究開発をやっている。1989年に中国の上海寳山鋼鉄会社がアメリカに,計算機シミュレータソフト漢字汎用ソフトを輸出して,各国の漢字使用の計算機に汎用ソフトを提供した。中国のソフト産業はこのように,現在急速に発展している。

中国のコンピュータ教育の現状

中国の総面積は約960万k㎡で,世界で最大の面積をもつ国の一つであり,現在の人口は1,111,910,000人で(56の民族をもつ多民族の国家),世界第1位で,世界総人口の約4分の1を占めている。ここでは,国民教育を概略的に紹介しながら,主にコンピュータ教育について述べる。

現在中国の教育システムは次のようになっている。即ち,基礎教育,高等学校と職業技術教育,大学教育および成人教育である。

基礎教育としては小学(6年)と中学(3年)である。現在,全国の小学校の児童総数は123,730,000人で,中学校の学生総数は38,380,000人である。(1988年末) 高等学校段階の学生数は12,970,000人で{職業技術学校(2,3,4年)の在校数は5,807,000人である},職業技術学校の在学生数は高等学校教育段階の学生総数の約44.8%を占めている。高等学校では3年間勉強して,毎年約60万あまりの学生が大学に入学することができる。

現在全国に大学は1,075あり,1989年末に在学生数は2,082,000人であり大学院の学生数は101,000人であった。中国では最近,大学制度の発展が目ざましく1984年と1985年には,毎年100校の新しい大学が設立され,平均3~4日ごとに1校新しい大学ができた勘定になる。中国の大学はほとんどが国立大学で,最近では,私立大学もできてきた。

成人教育とは成人大学,成人中等専門学校,成人技術訓練学校および成人中,小学校が含められる。成人大学の中には,通信大学,夜間大学,テレビ放送大学,短期大学があり,現在成人大学の在学生数は1,741,000人である(1989年)。成人中等専門学校の在学生数は1,705,000人である。成人技術訓練学校の在学生数は12,690,000人である。成人中,小学校の在学生数は約2,063万人である。現在全国で,毎年大学教育を受ける人数は約400万ぐらいとなっている。

その他に1978年以来の開放政策により,中国が派遣した公費留学生が6万人あまりでその中には訪問学者と研修員が4万人,大学院生が2万人,学部の学生が1千人である。そのうち,すでに帰国した人は3万人ほどになる(訪問学者と研修員が約95%)。なお,私費留学生が2万人あまりである。

次に,以上のような教育システムで,どのようにコンピュータ教育を実施しているのかを概略的に述べてみたい。

現在,中国の一部中,小学校(重点学校)で配置している主なコンピュータの機種は8bitのAppleme,と中華学習機CEC-Ⅰ型の国産機で,16bitのPC機はまだ少ない。主に使用されているプログラミング言語としては大部分がBASICおよびLOGO言語である。

現在中国では,ごく一部の小学,中学校だけにしかコンピュータは設置されていないが,ある中学では簡単なソフトを開発して,応用している。例えば北京第13中学校では,1989年に,高等学校における物理のCAIソフトシリーズを開発したし,北京景山中学では英語のCAIソフトを開発した。その他長春第81中学校でもパソコンが26台配置され,学生の計算機実習や,研究を行なっている。

現在中国の大学では,計算機科学学部が設立され,大学生はハードウエアとソフトウエアの教育を受けている。計算機科学学部が設置している基礎科目と専門科目を見ると,ほとんど諸外国と共通で,日本の大学の情報工学科の設置している科目ともほぼ同様である。また,中国の大学の中で設置されている最も大きな計算機はアメリカから輸入されたDPS-8型機である。(清葦大学,吉林大学)

清葦大学では,コンピュータ研究の分野は多岐に及んでいるが,報道によると,CAIの研究が最も進んでいるそうである。1988年にCAI研究会を設立して,同時にCAIセンター実習室も設立した。プログラミング言語CAIソフトなど様々なCAIのソフトシステムを開発,研究しているそうである。吉林大学は,人工知能,エキスパートシステムなどの分野では中国で最初に研究が始まった大学である。

なお,国民の計算機教育の一環として,1985年から,上海,四川,雲南省でソフト人員レベルの試験が始まった。日本でいう情報処理技術者試験である。現在は全国の31の省,市,自治区で,ソフト人員レベルの試験が行なわれている。1988年までは約2万人あまりの人が試験に参加して,約3,000人が,試験に合格した。プログラマ級,高級プログラマ級,システム分析級の三つのレベル別の試験となっている。以上のように,中国ではコンピュータ教育を重視し始めている。

展望:中国の計算機技術と世界の計算機技術との主な差は第4世代の計算機技術である。だから,中国ではかならず第4世代の計算機を経て,第5世代の計算機を開発するべきだと思われる。これで,中国のコンピュータ産業の展望を一言で言うと“第4世代の計算機技術を突破して,新世代計算機を製造して,2000年以降はそれを商品化していくことである”と思われる。そうすることで,2020年には,計算機産業が中国の支柱(核心)産業になるであろうと思われる。

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玄 光均
Xuan Guangjun
  • 1973年中国吉林大学物理学部卒業
  • 1983~86年,1989~90年の二度にわたり,京都大学工学部情報工学科にて共同研究
  • 現在,中国吉林大学計算機教学・研究センター教授
  • 京都コンピュータ学院客員教授

上記の肩書・経歴等はアキューム12号発刊当時のものです。