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Accumu Vol.22-23

やさしそうに見える電話番号の難しさ 総務大臣賞を受賞して

まえがき

NTTドコモ 藤原塩和

2013年(平成25年)6月,TTC(一般社団法人情報通信技術委員会:わが国の情報通信ネットワークに係わる標準化と普及を目的としている)が主管する情報通信技術賞総務大臣賞をいただきました。受賞理由としては,電話番号の標準化および普及に貢献したということですが,実際には,標準化活動そのものには参加しておらず,番号方式の策定やその導入,具体的には,携帯電話に関する番号容量の拡大に必要な柔軟課金方式,携帯電話番号の11桁化,緊急通信の接続方針等の提案等を実施してきたことが評価されたものと思っています。電話番号がそれほどのものなのか疑問に感じられる方も多いと思い,これを機会に電話番号についての理解を深めていただくために,電話番号の扱いの難しさを体験してきたことを,思い出も含めながら説明したいと思います。

1.電話番号の特徴

通信をするためには,通信したい相手を指定しなければなりませんが,その相手を指定することに用いられるのが,電話番号で,郵便の場合の住所に相当します。電話番号というのは,0〜9の数字の組み合わせで,ITU(国際電気通信連合)の勧告E.164で規定されています。勧告には,種々のことが記載されていますが,一言でいうと,最大桁数が15桁であることが決められているだけとも言えます。日本の場合,国番号が「81」の2桁ですから,国内の番号は最大13桁まで使用できます。これをどのように使用するかは,国内マターですから,各国の歴史が大きく影響することになります。

ここで,13桁と言うのは,市外局番の最初に来る「0」は除いて数えます。1999年の1月1日に行った携帯電話番号の変更を「携帯電話番号の11桁化」と呼びましたが,番号論的に言えば9桁を10桁にしたわけで,10桁化というのが正しい言い方になります。つまり,市外局番の最初の「0」は電話番号ではないのです。これは,プレフィックスと呼ばれ,「0」に続く数値が市外局番だということを示すものです。ですから,海外旅行をして例えばフランスから東京の自宅へダイヤルするときには,「00 81 3 5159 ××××」のように市外局番「03」の「0」を削除してダイヤルするわけです。ここで最初の「00」は,国際プレフィックスと呼ばれ,市外プレフィックスと同じような役目を持っており,それに続く数字列が国番号から始まっているということを示しています。なぜ,このようなプレフィックスを使用しているかと言うと,ダイヤルする桁数をできるだけ短くするためです。同じ東京内の人に,電話をかけるのに,「東京」ということをわざわざ指定する必要はないわけです。まして日本国ということを指定することは,全く無駄でしょう。このように,通信したい相手を示すにも,電子メール等の近年になってから作られた識別子とは大きな差があります。この差異の理由は,技術の問題で,コンピュータ技術の進展のおかげです。

話が少しそれますが,約40年前に私が京都コンピュータ学院の講師をしていた頃,大学では,FACOM-Rの1号機という8ビットマシンで,メインメモリ64Kのミニコンを使って手書き文字の認識を研究テーマにしていましたが,当時から見れば今のパソコンはスーパーコンピュータ並に見えたことでしょう。ところが,その当時の電話網では,電子交換機(コンピュータ制御の交換機)は導入されて日が浅く,殆どの交換機は,クロスバ交換機と呼ばれていたもので,リレーの組み合わせでできていました。初めてこのクロスバ交換機を目にしたとき,リレーの動作する「カチャ,カチャ」という音を聞きながら,どうしてコンピュータで制御しないのだろうと呆れ果てたものでした。ですから,ダイヤル数字を受信するのも,リレーの組み合わせで実現していましたから,できるだけ余分な数字を受信しなくてすむように,プレフィックスという概念を入れたとも言えます。

わが国の電話サービスの提供が始まったのは,1890年(明治23年)12月16日のことです。当時は,電話交換手が発信者と着信者間をコードで接続して通話回線ができるというものでしたが,そのときから接続相手を指定するのは,電話番号でした。それ以来約120年の間,電話番号は,料金を決めるためのパラメータとして等,いろいろな用途に使用されてきました。その約120年の歴史の間にできたしがらみというものがあります。つまり,電話番号は,その時代の技術レベル,制度,課金方式により,大きな影響を受けてきたと言えます。それが第一番の特徴です。具体的な例を一つ挙げておきます。特番と呼ばれている1XYも,1で始まるということで,形状的には自然さがあるように見えますが,実は,自動交換機が導入された1926年(大正15年)1月には,電話発信する際に電話機の受話器を持ち上げると,擬似パルスが出る可能性があり,これが,ダイヤル数字の「1」と区別が付かなかったため,電話番号として1桁目に「1」の数字を使用できなかったという事情がありました。そこで,1桁目の「1」は無視するという回路を付加して,それを特番として使用しました。しかし,別の問題も発生しました。手動式交換機の時代には,フッキングをすることにより,オぺレータの受付台のランプを点滅させることを推奨していました。そのために,ダイヤルする前にフッキングするという習性が残り,フッキングが「1,1」とダイヤルされたと自動交換機が認識してしまった結果,消防の特番112に誤接するということが発生し,「119」に変更した経緯があります。

2番目には,必要とする番号容量を予測することが非常に難しいということから,何桁にするのが良いのかが分からないということです。(勧告上は,1997年末に最大12桁であったのを,今後の需要増を考慮し,15桁に変更しました。)例えば,携帯電話機の2000年の需要数の予測値としては,1990年には800万,1994年には1000万,1995年には1250万,1996年には3200万,1997年には4500万と変化していきました。終局需要に関しても,国際的に,1990年代には,人口普及率数十%程度であろうと言われていましたが,現在では,2012年6月末現在で380%の国があります。更に,100%を超えている国は100ヵ国を超えています。

今では,キャリアのシステムはソフトウェアで制御されていますから,容量を増やすのもそれほど難しくはないかもしれませんが,PBX等利用者の設備を含め全世界の電話関係のシステムを対応させるということは,簡単にはできるものではないということです。

情報通信技術賞総務大臣賞の表彰状
情報通信技術賞総務大臣賞の表彰状

3番目の特徴として,そうした長い歴史を持つものですから,電話番号は日常生活において,いろいろな形で利用されてきていることです。番号変更の影響として一番に挙げられるのは,名刺の作り直しですが,それは,分かりやすいから例として挙げられているわけで,比較的小さな問題であり,実際の問題は,どのような利用のされ方をしているかを把握できないという面があることで,間接的に影響を及ぼすものをすべて拾い出すのは,非常に困難なことです。その一例として,携帯電話の桁増の際の話ですが,コンビニで公共料金の支払いをするとき,支払者を識別するコードとして,当時10桁使用されていましたが,そこに電話番号を使用している場合に対応するために,11桁にすると,そのフォーマットを利用している電力会社,ガス会社等のシステムのソフトウェアまで変更しなければならないということがありました。つまり,番号の変更は社会に大きな影響を及ぼす危険性があり,まして白紙に戻って作り直すということは非常に難しいということです。

4番目には,従来予想していなかったサービスが生まれることがあり,それも携帯電話のような需要があるかもしれないということです。一方,これとは反対に,当初予測した需要が出ないというものもあります。UPTサービス(Universal Personal Telecommunication Service)というサービスが1980年代盛んに議論され,将来のサービスとして注目されていました。電話番号は,通常加入者の回線あるいは端末に付与されているものですが,UPTサービスというのは,ネットワークから独立な通話対象そのものである人に番号を付与するという概念のサービスです。つまり,他人の端末を使用しても,自分に課金され,登録した場所に接続されるというものです。従来のサービスで言うならば,他人の電話を使用しても自分の支払いとなる第3者課金サービスと,自分のいる近くの電話機に転送してくれる(いわゆる追っかけ電話)サービスの複合形と言えます。そして,このサービスが普及すれば,一人に3個の電話番号(プライベート用,会社用,その他のため)が必要になるかもしれないと言われていました。そうすれば3億程度の番号が必要になるかもしれないと。そして,「060」で始まる11桁の番号が割り当てられましたが,現在,本サービスを提供している事業者はいません。どこでも,いつでも通信ができ,位置登録も自動的にしてくれる携帯電話の普及により,UPTサービスの存在価値はなくなったと言えます。しかし,当時,携帯電話は高級品で利用料金が高いと思われており,このように普及するとは誰も考えなかったようです。また,発信者課金ポケベルサービスの番号「020」についても,同様のことが言えます。ポケベルというサービスの課金は,発信者からは,ポケベル交換機までの料金を徴収し,無線で呼び出すための料金は,着信者から徴収するというものでしたが,発信者課金ポケベルサービスというのは,それら2種類の料金を発信者側から徴収するというものです。発信者課金ポケベルサービスの番号として「020」が割り当てられましたが,このときの需要予測は終局1000万を超すということで,比較的多くあった「0AB0」番号を用いず,数少ない貴重な「0A0」番号を用いました。ところが,2013年(平成25年)6月末現在の一般ポケベルを含めた加入者数は,15万を切っています。このように,電話番号は時代とともに変化していくということが,番号方式を定める上での難しさとなることがお分かりいただけたでしょう。

2.柔軟課金方式の導入

制度・課金方式が番号に影響を与えた例として,自動車・携帯電話番号があります。自動車・携帯電話の番号は,当初発信者(固定電話発)と自動車・携帯電話端末との距離により,030XX・・Xと040XX・・Xとを使い分けていました。これは,NTT固定電話発の呼の料金は,市外局(TS)でもって電話番号の上位5桁を分析して,課金指数を決めていたことにより,電話番号により料金が決まってしまうというものであったためでした。そのため,自動車・携帯電話端末が,遠く離れているときには,040をダイヤルしてもらう必要があったわけです。更に制度的に固定電話発自動車・携帯電話着の呼の料金設定権は,自動車・携帯電話事業者が持っていましたから,発側の固定事業者では,料金が分かりませんでした。その結果として,1端末に2番号を付与していることになったこと,更に,事業者毎に自由な料金設定ができず,一律の料金となり,事業者間の競争を阻害していることという問題が指摘されていました。そこで,この問題を解決するために,自動車・携帯電話事業者から,固定電話事業者に課金情報を呼毎に送るという方式を提案しました。この方法は,悪名高いダイヤルQ2サービスで開発したものでした。それを事業者間に適用するために,国内で標準化を図ったものです。ただし,その課金情報を,発信者が収容されている発信側の交換機に届ける必要がありました。課金情報を運ぶためには,ISUPという共通線信号方式を用いなければできませんでしたので,固定網(NTT網)のLS交換機もすべてISUPで接続されていることが必要でした。事業者の交換機間はISUPで接続されていましたが,それは,NTTの網がオールディジタル交換機化されるまで導入は待たねばなりませんでした。そのため,携帯電話番号が不足した1996年1月には,結局間に合わず,080/090を用いることになりました。なお,柔軟課金方式が導入されたのは1998年4月です。

反対に,番号が課金方式を決めた例としては,米国の携帯電話サービスが挙げられます。米国の携帯電話番号は,固定電話の番号と同じ体系で,日本の「090」のように一目で相手が携帯電話かどうかを知ることはできませんでした。また,固定電話番号と同じ形式でしたから,固定電話と同じ料金しか徴収することができませんでしたので,着信者側では無線にかかわる料金は,着信者が支払わなければなりませんでした。そのため,以前は,携帯電話は通常電源を切っておき,着信を受けるときだけ電源を入れるという使い方をしていた人が多かったと言われています。

3.携帯電話番号の11桁化

2013年度一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)表彰式の様子
2013年度一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)表彰式の様子

需要予測が難しいことで,番号に大きな影響を与えた例として,携帯電話番号の桁増があると思います。1項で述べたように,携帯電話のこのような飛躍的な発展は,世界的にも誰も予想していませんでした。固定電話の場合,番号が不足すると,東京の市内局番の4D化のように,市内局番の桁数を1桁増やすという方法を用いていました。市内局番の桁数を増やすには,2つの方法があります。純粋に1桁増やす方法と,桁ずらしと呼ばれている市外局番の末尾の数字を市内局番の1桁目にする方法で,市内局番の1桁目に使用できなかった「0,1」が使用できるようになりますので,容量が増えるというものです。後者の方法は,市外からかける人にとっては,番号は変わらないということがあるほか,番号変更した地域だけが意識されればよいのがメリットです。一方前者の場合には,1桁増え番号が変わります。しかし,その変更方法は,東京の4D化のときのように「市内局番の頭に,東京の市外局番の『3』を付けて下さい」とPRできるような簡単なものでした。現在の固定の番号体系は,1961年(昭和36年)に作られたものですが,その頃から終極は10桁になるという予測でした。そして8桁で始めて,需要が増加すれば,9桁,10桁とすることが決められていました。固定電話については,現在でも,東京周辺地区を除いて,この原則で対応できてきたというのは,先人の作った番号計画がいかに素晴らしいものであったかを感じる次第です。しかし,それでも当初予測していなかったサービス(携帯電話)がこれほど伸びるとは考えられなかったでしょう。

携帯電話の桁増は,それまでの桁増とは根本的に異なっていました。つまり,日本の電話番号は最大10桁と暗黙のうちに信じられ,世の中の電話番号を扱うシステムが11桁を扱うように考えられて作られていないのではないかという懸念がありました。PBX,ボタン電話機,緊急通報装置等通信機器に影響があることは,言わば仕方ないことですが,問題は,通信に直接関係のないものにも影響があるということでした。例えば,電話番号は顧客管理しているデータベースなどでは,必ず含まれている項目です。このデータベースだけでも,銀行,クレジット会社,百貨店,通販会社など拾い上げるときりがありません。こうしたデータベースで,電話番号エリアとして10桁しか確保されていないものはすべて変更してもらわねばなりませんでした。

携帯電話番号の容量を増やす方法として,11桁化するほかに,次のような方法も考えられました。1992年に東京の市内局番を4桁化しましたが,市内局番の1桁目は,3,5,6を用いていました。そこで空いている市内局番の2桁目を携帯電話番号として使用できないかという案が生まれました。即ち,03B・・・・のB=3,5,6を固定電話の番号として,03B・・・・・のB=0,1,2,7,8,9を携帯電話番号とするというものです。この対案は既存加入者の番号変更を禁止的と考えるか,将来の番号容量に十分な余裕を持たせるかという,常に番号変更に纏わりつく難題に行きつくことになります。どちらを採用するか,番号研究会(通称,注1)で議論されましたが,最終的には,桁増を行うことが定められました。結果的に見れば,大きな影響を与えたけれども,十分な番号容量を確保した桁増を採用したことが,良かったと言えます。それは,予想した需要数より,更に需要が伸びたことによります。結局,番号方式で重要なことは,予測が外れても,対応できる案がありうるかどうかというのが,一つの重要な判断ポイントと言えるのではないでしょうか。

なお,桁増を行った1999年末時点の加入者数は約5000万であり,かつてない大幅な変更であったけれども,大きな問題もなく実施することができました。更に需要は伸び続け,現時点では約13000万の人が加入しており,桁増を行っただけでは需要を満たすことはできず,080を用い更に,PHSで使用している070も,2013年11月から使用しています。

※注1 総務大臣(以前は郵政大臣)が開催する番号に関する私的諮問機関

4.今後の電話番号の課題(M2Mの番号,インターネット電話の番号)

電話番号の最近の課題は,M2Mの識別子として何を使用するかという問題です。数年前から議論されている問題で,携帯電話システムを利用する場合には,携帯電話番号を使用するというのが,オーソドックスな考え方ですが,それでは,番号容量が不足するという問題提起がSG2でオランダ,フランスよりあり,検討が始まったものです。GSMAにリエゾンが送られ,3GPPのSA1で検討が進められ,当初は,当面はE.164を使用するが,将来的には,URI等の別識別子を使用することで標準化が図られようとしていました。その案に対して,将来的にもE.164も標準として認められるべきという主張もあり,最終的には,E.164及びURI等の新しい識別子の両方が認められました。オランダでは,携帯電話番号を2桁増やし,専用番号帯を使用することを決定(2011年12月),フランスでは0700を14桁で使用することを決定(2012年7月),その他,スウェーデン,ノルウェー,スペイン等も桁増することが決められています。一方,米国では,電話番号を桁増するには,膨大な費用(1000億ドル?)を必要とすることから,URIを用いる予定だと言われています。米国の番号方式は,他国とはやや異なっています。例えば,以前は,市外局番と市内局番の識別にプレフィックスを用いず,2桁目のダイヤル数字が0/1の場合に市外局番と見なしていました。また,携帯電話と固定電話は同じ体系を使用しています。このため,携帯電話-固定電話間の番号ポータビリティが可能ですが,前項でも述べましたが,携帯電話で着信を受けた場合でもエアチャージを支払わなければなりません。こうした違いから桁増に膨大な費用がかかるのかどうかは分かりませんが,費用面での評価が,M2Mの識別子を決める上での大きな割合を占めているという特殊事情が大きいと思われます。同じネットワークを使用するのに,通信内容,端末により,識別子が異なるということは不自然であると思われ,番号容量が不足するなら,既存携帯電話番号の変更を行わないために,専用番号帯を設け桁増を行うのが良いと考えています。

もう一つの大きな課題としては,インターネット電話に,通常の電話番号(E.164で規定する番号)を付与するかどうかという問題があると思います。ここで言うインターネット電話とは,スカイプに代表されるようなタイプのもので,インターネット網を介して回線が設定されるものです。(同じIPプロトコルを用いている電話にIP電話というのがありますが,これはインターネットとは独立な網であり,品質が保証されているものであり,わが国では,「050」番号を付与されています。)これに対するITUの考え方は,「インターネット網は,管理されていない網であり,誰が通話の責任を持っているのかが不明であり,管理責任者がいないので,そのような網に対して,E.164番号は付与しない」というものです。しかし,先進国では,どのような仕組みか分かりませんが,実際にE.164番号が付与されているように思われます。今後ともに議論が続くでしょう。

あとがき

20年ほど前の番号研究会の議論の中で,将来は,電話番号はなくなり,より分かりやすい識別子ができるのではないかということがありました。今でも,同じことを言われることがあります。既にそのような識別子は,使用されています。電子メールのアドレスはその一例でしょうし,スカイプなどのインターネットを利用した電話では,電話番号は使用されていません。また,今では,携帯電話に代表されるように,発信時に番号をダイヤルするケースは極端に減っています。多くの人は,名前などで検索し,発信ボタンを押すだけで,相手番号を意識していないと言えそうです。だからと言って検索するときの名前が識別子になることはできません。識別子であるための必要条件はいろいろあると思いますが,最小限,唯一性が担保されることが必要です。メールアドレスのような形態が一つの模範でしょう。現時点で技術的には可能でしょう。しかし,実際に現在の電話番号をすべてなくすためには,世界中のすべての電話番号を使用しているシステムの変更が必要です。電話番号の桁数を12桁から15桁に変更するだけでも,10年間の移行期間を設定しました。それを考えると,数十年は必要ではないでしょうか。先に述べたように,電話番号は,様々なシステムにデータとして使用されています。それらをすべて変更してまで,電話番号をなくす必要性があるのでしょうか。それよりも,電話番号の基盤は残し,番号では不便な点をサポートする仕組み――例えば,現在の携帯電話のメモリダイヤルのような機能が上位レベルに作られるのではないかと思われます。あるいは,スカイプのように最初から電話番号を使用しないシステムが次第に増加し,ある時点で,2重構造が多くのシステムで耐えられなくなり,一気に廃止されるのかもしれません。私は,1〜0の10個の符号でできているシンプルな電話番号はこれからも長く,表に現れなくなっても生き続けるであろうと思っています。

2013年度一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)表彰式後の記念撮影。前列左から4人目が筆者
2013年度一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)表彰式後の記念撮影。前列左から4人目が筆者
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藤原 塩和
Shiokazu Fujiwara
  • 京都大学大学院工学研究科修了(電気通信工学専攻)。日本電信電話公社入社後,エヌ・ティ・ティ移動通信網株式会社に転籍し,経営企画部担当部長。エヌ・ティ・ティ関西ドコモ株式会社取締役・マルチメディア推進本部副本部長,同社特別参与などを歴任し,現在,株式会社エヌ・ティ・ティドコモ経営企画部担当部長。元京都コンピュータ学院講師。元学校法人京都コンピュータ学園理事。「電話番号等識別子体系の標準化及び普及活動の貢献」で,2013年度一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)情報通信技術賞総務大臣表彰を受けた。

上記の肩書・経歴等はアキューム22-23号発刊当時のものです。