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Accumu Vol.15

若い時代を振り返って

京都情報大学院大学 教授 今井 恒雄

京都情報大学院大学 教授 今井 恒雄

開演5分前の予鈴が鳴る。舞台の袖で,軽い緊張感が身を包む。難しい曲のフレーズを頭の中で反復する。本鈴が鳴って長年使い込んだホルンを携えて舞台に上がる。

軽いチューニングの後,指揮者が登場して演奏が始まる。今回のコンサートは難曲が多く緊張が続く。アンコールが終わると,満足感に充ちた一瞬を味わう。2006年4月17日,“roots ensemble”の定期演奏会が無事終わった。

楽団結成以来30年になる。何度舞台に立っただろう。

それぞれの楽器の音を聴きながら,指揮者の気持ちを読み取り演奏する。ホルンのパートは1番から4番まで4人で受け持つ。演奏中にリズムとピッチがぴったり合った時は最高の気分になる。お互いの音が共鳴し,分厚い和音の大きな響きとなってホールに広がっていく。楽器自体もビリビリと共鳴し演奏者と共に楽しんでいるように感じる。至福の時である。

楽器を始めたのが中学一年の時だから,もう50年近くになる。社会人になってから何年かのブランクはあるが,よく続いたものだ。大学時代はオーケストラの練習場にいる時間が長かったように感じる。

若い時に覚えたことは一生忘れない。楽器,スポーツなど体で覚えることは特にそうである。普段は忙しくて合奏に参加できないのが残念だが,演奏会の前になると,ホルンを引っ張り出してきて,練習を始める。何回か練習に参加すると,だんだん昔に戻ってくるから不思議である。指使い,金管楽器特有のマウスピースで音を出す時の唇の感覚などは,体で覚えたものだから,すぐ元に戻る。持続力とか,音の張りなどは練習量の問題なので,とにかく吹き込むことである。最近はサイレントブラスという便利な道具ができて,自宅で練習しても大きな音は出ない。ありがたい文明の利器である。

これからも体が続く限りこの趣味は続けようと思っている。

社会人になって,コンピュータ関連の会社に入った。大学でもコンピュータを専攻したので,望んだ仕事ができることを喜んだことを覚えている。

入社直後は恩師の萩原学長の縁で大阪の万国博覧会のあるプロジェクトを担当して,大変貴重な体験をさせていただいた。研究所に配属されていたら,趣味を活かしながらコンピュータミュージックの研究を何とか続けられたかもしれなかったが,その後はオペレーティングシステムの開発の仕事に就いた。コンピュータが企業の基幹システムとして使われ始めた時代である。チャレンジャブルな仕事で夢中になった記憶がある。OSの基本的な構造の美しさに大きな感動を覚えた。その頃開発したプログラムは今でも漠然としたイメージが残っており,もし,昔のプログラムを見たら自分の作った部分は鮮明に思い出せるのではないかと思う。

また,アメリカでARPANETの研究が進んでいる時,日本電信電話公社(現在のNTT)が回線交換とパケット交換の実証実験の一環として,民間企業,大学と共に大学の共同利用の大型計算機センタを相互接続し,リモートバッチ処理とTSS処理の異機種間相互利用システムの開発実験を進めていた。その後N1NETとして広く使われたサービスである。幸運にも私もそのプロジェクトに参画でき,インターネットではTCP/IP,パケット交換,TELNETに当たる部分の開発に携わることができた。これも貴重な体験で,その後の仕事に活かされている。

若い時代は,大きな可能性と様々な魅力に満ちたときです。同時に将来の自分を形成する元を作る大切な時期でもあります。若いときには,何をやっても柔軟な吸収力で身に着くものです。趣味,語学,学ぶ分野,何にでも全精力を傾けてください。それは,自分の血となり肉となって,将来,必ず何らかの形で自分を活かすことになり,結果として大きな実を結ぶことでしょう。


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今井 恒雄
Tsuneo Imai
  • 京都大学工学士,同大学院修士課程修了(数理工学専攻),工学修士
  • 京都情報大学院大学教授
  • 元富士通株式会社システム本部主席部長,元株式会社富士通ラーニングメディア取締役
  • 日本e-Learning学会副会長

上記の肩書・経歴等はアキューム22・23号発刊当時のものです。