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Accumu Vol.1

現代詩 早稲田大学同人誌サークル「行李」より

帯を梳く,帯に梳かれる

大隅 敦子

帯を梳く,帯に梳かれる 細なう 糸 ゆび ゆびの間 織り 越

しに 木 木 膚 かすれる,まわる,伏せられながら,その枝の

 ひろがっていく

 

                   またそらは

    高く伸びる 私たちのうしろがわで それを

    目の端にも入れられない 先を急ぐひとに

    押し戻されながら 鈎状の半身 肩 はりが

    ねを伸ばす 上り階段 長い乗継ぎの プ

    ラットホームを歩く 800m ホームをわ

    たっていく

    数分

 

そらが打たれたようにけざやかな あおい頬を抜いていても

帯に梳かれて 行ってしまう

 

水=双 足うらは キーをたたく 八つの頬 白茶 うぶげ の封

筒に 打ちしだかれていく土地の勾配

乾いて(いる),

乾きかけて(いる),

載せて(いる),

湿って(いる),

浸して(いる),

吹く,吹か(れる),芽は

返る,

懸想する,懸想する,

目の中へ入る,

しだれて(いる),

しだれさせて(いる),

指 甲 差す,

差し返す

 

疲れた脚から滴ってくる

水気 たかさをひとしく 囲んでいく線のもの狂い

優しいつので破る皮膚穴呼吸

先細に 尖がらされる 息をつめる

今はシャワーのように深い毛あしを,一面のからだからなびかせて

至ろうとしている

 

    心配は 折れ線のようにかたむく 角張りな

    がら 取りもどしたり あふれさせたり 数

    メートルの距離で 鴨鳥をみる 水面 なだ

    らかな くびからみどりのむねへ ひとしき

    り傾斜して尾羽へ 尾羽からくびへそして嘴

    へ めぐらされていく

    数秒

 

そらの低いところで

         深く覆われる

私たちは

                ゆさゆさ

梳かれて

行ってしまう


メッセージ

小林 弘明

一日中研究室のコンピュータの端末に座っていると時々頭がボンヤリする SYNTAXERRORがリターンキーとともに増殖する ありもしないコマンドを送ってみたり 星印をディスプレイに並べてみたり ぼくは椅子にはりついた身体を窓辺にもっていく

 

研究室は郊外の丘陵地にあり小鳥が群れている 鼻先の冷たいもの 今日は天気「………。」と君の名前を繰り返すような頭の状態は青空に浮ぶ雲 ぼくは白い雲の輝きを眺める 小鳥の姿が見えない コンピュータの端末はさえずる雲の高さの本体から小鳥の軌跡が流れインプット待ちの発信音は繰り返す ぼくには遅れる小鳥の波動 小鳥が見えない意味は? と考えるのはぼくのせいではない 繰り返す

君の帽子の上の雲

赤レンガの煙突が遠くに崩れている

コスモスの川原で帽子にかくれる

地平線のコスモス

コスモスは煙突を風化させる

赤い煙突と帽子の共通点をあげよ

寝そべって読む詩集

川原に沈む線分

遅れて小鳥は直線をひく

コスモスの地平線

にぶらさがっているものがある

赤い煙突はなつかしむ

帽子にかくれる君は耐えている

しかし

繰り返し直線をすべる

Lは風にあおられ届くだろうか

Oは風通しがいい

Vは逆立ちして

Eは這いつくばって

コスモスの川原

EVOLと折り重なる

花は揺れない

コスモスの地平線

空には

愛がぶらさがっている

鳥は直線を引く


散歩

湯下 秀樹

昨日,あなたと

夜の散歩に出てから

記憶を逃がしてしまったらしい

朝まで,さまよっていると

足もとからすべて,漂白されてくる

 

つまずきそうになる

坂の途中で手を離し

危険な加速に身をまかせ

ひとりの遊戯にひたる

ふりかえると,あなたは

見知らぬ人のように坂をおりてくる

 

あなたが追いついて

互いの目を見ると,そこに

薄い色で疑惑に似たものが

まとわりついているのに気づき

手をつよく握る

 

体温だけをよりどころにして

氷塊のように自動車の滑る

朝の通りに

消えることのない刻み傷をつけるように

二人で駆けてみる


手紙

湯下 秀樹

  目覚めると

  日は高く

  百合にしかられる

  僕は女の子に手紙をだした

  机上の切り花

  一昨日,大家のくれた

  庭の百合

  部屋中見下ろし

 

 空いっぱいに萌す雲に

吉凶の趨勢をたずね,角のたばこ屋まで。

 白銀の雲頂はひろがりをみせ始め

朝顔とひらく。手紙は読まれたろうか。

 

 午後になると,空は脈絡をうしない

夕立になる。切り花は,青銅の水に黙する。

バイクが通ると表に飛び出し

その度に,からの郵便受をのぞく。

 

  郵便屋さーん

  失念したように

  百合の花弁も匂わない

  忘れちゃいけない

  わきかえれ 海よ

  カーテンの外

  びんぼう びんぼう

  と,うるさい雨垂れ


はひふへほのうた

北山 花嵐

あおひじうたんにのって

ゆったりとしたれげえの

りずむにのって

ぼくはそらをとぶのだあ

 

なんごくのそらのいろのうえに

すわって

ぼくはそらをとぶのだあ

 

めろでいがじうたんを

したからささえてくれるのだあ

 

だからぼくはいま

くうきなんだあ

 

あかいじうたんはめのしたに

なんぜんきろめえとるもしたに

もう

とおいんだあ

 

ふわありふわありとかぜが

ぼくをはこんで

くれるんだあ

 

たいようさんがそらの

もっとうえから

ぼくをよんでいるんだあ

 

りずむがぼくのしんぞうを

めろでいがぼくのたいじゅうを

ささえてはこんでくれるんだあ

どんどんそらへ

とおいとおいところまで

ぼくはとんでいくんだあ


ジプシー

北山 花嵐

郷デハ忘レラレ

他所デハ名モ無ク

彼ノ地ニ在ナガラ

時代ノ中ニ身ヲ置カヌ

想イ,昨日モ

夢幻ノ,明日モ

スデニ

何処カニ

置イテキタ


Something From Father to Son

北山 花嵐

蒼白に空を包む

巨大な幕の雲

陽はその奥に昇り

女神は両手をひろげて-

 

その彼方瓦礫のはてを

眺めながら

パンとコーヒーを分けあい

話すことなく

something from father to son

 

紺碧に広がる海

銀糸立ち昇り

女神は水平線に立つ

両手を掲げて-

 

その彼方時の向こうを

見つめながら

肉を切り分け

訊くこともなく

something from father to son

 

玲瓏の山々に映る茜

染め上がる大空

女神は地平線に去り

微笑を投げかけ-

 

その彼方世の終わる所

眺めながら

酒を注ぎあい

語り合うことなく

everything from father to son

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北山 花嵐
Karan Kitayama
  • 京都コンピュータ学院教職員

上記の肩書・経歴等はアキューム13号発刊当時のものです。

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湯下 秀樹
Hideki Yushita
  • 京都コンピュータ学院教員
  • 早稲田大学法学部卒業
  • 同志社大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了
  • 修士(法学)
  • 2004年に京都市文化芸術振興条例策定協議会委員を務める
  • 著書「インターネット検索能力検定試験教本」(共著)

上記の肩書・経歴等はアキューム16号発刊当時のものです。