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Accumu Vol.18

「日本・ドナウ交流年2009」認定事業 ダンス公演『Dance of Death ~生きるよろこび~』

京都コンピュータ学院 末広 ゆかり

ダンス公演『Dance of Death ~生きるよろこび~』
ダンス公演『Dance of Death ~生きるよろこび~』
ダンス公演『Dance of Death ~生きるよろこび~』
ダンス公演『Dance of Death ~生きるよろこび~』

2009年9月22日,23日,京都府立文化芸術会館で,マリ子ダンスシアター主催のダンス公演『Dance of Death ~生きるよろこび~』が開催された。

マリ子ダンスシアターは,1984年,芸術監督の高安マリ子さんを中心に結成。バレエ,モダンダンス,ジャズダンス,ストリートダンス,エアロビクスなどのレッスンを行っている。また,主宰のマリ子さんが臨床心理士,ダンスセラピストであることから,呼吸法,ダンスセラピー,ダンスメディテーションなどのワークショップも開催している。その他,舞台公演,他分野(音楽,演劇,マルチメディア等)との交流公演,海外芸術家との共同制作公演,ダンス教育研修,ダンス留学指導を行い,これらを通してアメリカ,ドイツ,フランスなど,海外のダンス関係者とのネットワーク作りにも力を注いでいる。

私は1991年から同シアターでダンスや呼吸法,ダンスメディテーション,インストラクター養成講座などを学び,発表会や公演,ショーなどに出演している。2006年には京都コンピュータ学院に念願のダンス同好会が発足し,顧問を務め,部員へのダンス指導と,11月祭(学院祭)でダンス同好会発表会を開催している。

今回の公演は,同シアターの結成25周年と,国際交流基金京都支部との共催により,外務省の「日本・ドナウ交流年2009」の一環である日本・ハンガリー国交回復50周年記念事業として開催された。ハンガリー政府より招聘されたコンテンポラリー・ダンサーのパル・フレナックさんや,同シアター主宰のマリ子さん,京都市聴覚言語障害センター若木寮の方々,一般公募によるダンサーたちと総勢50名が,共生と共存をテーマにして,「あらゆる生命が生きることのよろこび」をダンスを通して表現した。

この公演は3部構成で,1部は同シアターのインストラクターが振付した小作品集,2部はマリ子さん振付の『Dance of Death ~生きるよろこび~』,3部はパルさんのソロ『Mennono』とマリ子さんのソロ『Mandala』,フィナーレと,約2時間の大作となった。

1部の小作品集は,お葬式をモチーフにしたコメディ作品『プロローグ』から始まり,短い丈の留袖とスパッツ姿で和太鼓曲を使った『弾』,『Breathing』,『みんな元気』と続き,最後はシンクロナイズドスイミングとフレンチカンカンを組み合わせたパワフルなエアロビクス『燃エアロ』で盛り上がった。

2部の『Dance of Death / Why Am I Here?』は,マリ子さん振付で,音楽,映像,ダンスの融合作品。ダンス公演では,あるシーンだけバックに映像が流れることはあるが,すべてのシーンに流れるというのは異例ではないだろうか? 映像制作を担当したのは,William Gambell さん。ラッシュにもまれるサラリーマンたち,温泉にのんびり浸かる野生のサル,大空を舞う鳥,雄大な雪山と雪崩,ベトナム戦争,原爆,月,宇宙など,観る人の心を射抜くような映像だった。「生きるってなんだろう?」と思った方が多かったのではないだろうか? あまりにもインパクトの強い映像であったため,私たちダンサーは,映像以上にパワフルなパフォーマンスを求められた。

マリ子さんは,いつも「愛」「平和」「自由」「平等」などのメッセージを作品にこめている。主なシーンを紹介しよう。


Dance of Death / Why Am I Here?

プロローグ
Dance of Death / Why Am I Here?

2本のろうそくを両手に持った内掛け姿の女性たちが,∞(無限大)の形におごそかに歩き,次第にスピードを上げていく。無限大型のスパイラルアップのエネルギーで,観る人の心の詰まりを浄化していく。


Dance of Death
Dance of Death / Why Am I Here?

人間が最も恐れる「死」。2名のダンサーがこの世に未練を残しつつ死んでいく姿を表現。周りのダンサーたちは,メディテーション(瞑想)で生きる喜びをかみしめ,こころが解き放たれていく。


恐竜&仏像 VS 子どもと宇宙人
Dance of Death / Why Am I Here?

背の高い恐竜のように,さえぎるものもなく上に伸びていく4名の女性。嘆き悲しむ男性と,彼に生きる喜びを呼び戻させる子ども。その横では,しきたりや伝統を重んじる兵隊のような仏像のかたまりを,自由な発想を持つ子どもたちがぶち壊していく。崩したと喜んだのも束の間,元の形に戻る仏像たち。子どもたちは宇宙人を味方につけ,再び仏像たちを壊し撃退する。


Book(本)
Dance of Death / Why Am I Here?

現代社会では,大人が子どもに対していろいろな知識を詰め込み,無意識のうちに余計な不安を植え付けて,本来の成長を妨げている。それを本を使って表現。大人たちから次々と本を持たされ,重さに耐えられなくなる子ども。ついに感情が爆発し,本を投げ捨てる。そこへ妖精たちが現れ,本来人間が持つ豊かな感情を教えて,子どもはよみがえっていく。一方,大人の男性は爆発することもできず,重い本を抱えたまま倒れていく。


かくめい☆
Dance of Death / Why Am I Here?

兵隊のように,かつ欲望のために動きまわる大人たちを,中央に立つ子どもが嘆き怒りながら見ている。大人たちは徐々に気付き,変わり,大きな波となって革命を起こし,本来の大きな存在の自分を取り戻す。それを見てほほ笑む子どもの姿は,西遊記の釈迦如来を想起させる。中央の子どもと周りの大人たちとの静と動の対比がおもしろい。


エピローグ

プロローグと同じく内掛け姿の女性たちが,嵐のような「かくめい☆」の空気を鎮めるかのような作品。



『Mennono』 『Mennono』

3部のパルさんは,競泳の水着姿で登場。とても50歳代には見えない艶のある美しい筋肉である。鍛え抜かれた体からは,とてつもなく大きなオーラが出ていた。『Mennono』は足元に置いた布を,手を使わずに踊りながら徐々に下半身に巻きつけていくパフォーマンス。動きが繊細かつダイナミックでとてもセクシー。


『Mandala』

マリ子さんの『Mandala』は,2006年のハンガリー舞踊フェスティバルや2007年のダンス公演『ライオン・ガールズ』で絶賛された作品。人間の喜怒哀楽や苦悩を表現しているように思う。体の動きは少ないが,内面は激しく動いているのを感じる。後光が差したような照明の演出もあり,マリ子さんが観音菩薩に見える。


フィナーレ

フィナーレは,マリ子ダンスシアターやマリ子さんが過去に使った衣裳や着ぐるみに身を包んだダンサーたちがファッションショーのノリで総出演。まさに「マリ子ダンスシアター 衣裳の歴史」。パルさんとマリ子さんも登場し,ダンサー全員でお辞儀とダンスで拍手に応えた。

フィナーレではパフォーマンスをやり遂げたダンサーたちの適度な緊張が解け,それぞれの個性が表われる。観客もまた,パフォーマンスを観ている時はかたずを呑んで展開を見守っているのだろうが,この時こそ,ダンサーと観客が一体になって,幸せを感じるひと時ではないだろうか? 3回公演とも,大盛り上がりして幕を閉じた。

この公演は約半年をかけて,ワークショップや実験を繰り返して制作された。より良い作品にするため,直前になって大幅に変更になったシーンもあり,3回公演の最後の回まで成長し続けた。舞台には決して「完成」という形はない。私たちダンサーもこの公演を通して少なからず成長したと思う。

共催の国際交流基金や,後援のハンガリー共和国大使館,京都府,京都市,教育委員会の方はもちろん,新聞社の方々も観に来られ,高い評価をいただいたそうだ。その方々の強い要望があり,3年後,『Dance of Death』の続編が制作されることが決定している。次の作品がどうなるのか,どう関っていけるのか,今から楽しみだ。

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ダンスは決して特定の人が楽しむものではありません。日常の動きそのものがダンスなのです。ダンスを通じて,生きる喜びを感じ,無意識のうちに変えられた自分を取り戻しませんか? 皆さんも私たちと一緒に,からだの枠を超えて踊りましょう!


〈『Dance of Death』のフライヤーより〉

生命は,すべてつながっている。生命活動における「死」をむかえたとしても,細胞レベルで見れば,永遠に分裂や融合を繰り返してエネルギーを生み出し,停止することなくうごいている。その振動はさまざまに響きながら音楽を奏で,宇宙へと無限に広がっている。そのものがダンスである。

私たちは,ダンスと音楽の調和によって生きている。日常のうごきはダンス,日々発せられる言葉は音楽,呼吸は精神である。呼吸とともに自分の内側で生まれるうごきが体内に響き,からだから熱を発している。どのように調和するかは,私たち次第である。この地球上でさまざまなエネルギーと調和することを表現するのが,今回の公演の目的。

引力を感じ,大空に向かって息がきれるまでうごき,息が止まるまで踊り続ける。身体を超えて踊る。消えるまで踊る。


●マリ子ダンスシアター

 http://web.me.com/marikodancetheatre/

●京都コンピュータ学院(KCG)ダンス同好会

 http://www.kcg.ac.jp/campuslife/club/
 在学生,教職員はもちろん,卒業生の参加も大歓迎です。練習日程はメールにてお問い合わせください。
Email : hello@kcg.ac.jp

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末広 ゆかり
Yukari Suehiro
  • 京都コンピュータ学院情報科学科卒・教職員・ダンス同好会顧問
  • マリ子ダンスシアター所属
  • 高安マリ子氏の下で,ダンス,ダンス・メディテーション,ダンス・セラピーなどを修業中
  • モダンダンス,ジャズダンス,クラシックバレエなど,さまざまなジャンルのダンスに挑戦している

上記の肩書・経歴等はアキューム18号発刊当時のものです。