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Accumu Vol.20

卒業生登場 (株)Tryden 吉田鐘一さん

株式会社Tryden 代表取締役社長(CEO)
2010年 KCG情報学科卒
大阪・東海大学付属仰星高校出身

(株)Tryden 吉田鐘一さんIT業界で「奇跡」を!
KCG皆勤,国立大大学院在学中に起業

ギリシャ神話で海神ポセイドンは「トライデント」という三叉(さんさ)の槍を武器として使った。この武器には,多くの敵を倒すだけでなく,岩を裂き,風を起こし,はたまた干ばつの畑を潤すための泉を湧き出させる力もあったという。KCGでは一日も休まず,一度も遅刻せず,黙々と勉学に励み,卒業後は国立の筑波大学大学院(システム情報工学研究科)に進学。その後,多くの仲間と力を合わせ,第一の目標だった「会社設立」は早くも実現させた。自らが代表取締役社長を務めるその社名には,ポセイドンが持つこの武器に秘めた「奇跡」の力を,IT業界で巻き起こしていこうという夢,それに苗字に「田」の字が共通するスタッフ3人が世界に通用するサービス作りに挑戦「Try」していくという意欲を込めた。すでに次の目標は射程距離内にある。「30歳になるまで,5年後には実現させます」と188㌢の長身は,その体をさらに大きく見せながら力強く語った。

近年,再開発が急な東京・新宿駅南口から歩いて10分ほど。ダヴィンチ新宿ビルにはインターネット総合サービス企業・株式会社 サイバーエージェントの関連のインキュベーター「クロスコープ新宿」が設けられ,吉田鐘一さんの会社「Tryden」はその一室にある。株式会社サイバーエージェント・ベンチャーズ(本社東京都渋谷区,株式会社サイバーエージェントの連結子会社)の企業ビジネスプランコンテストに採択されたのを機に2010年のクリスマスイブの12月24日,「この年最後の『大安』でもあった」(吉田さん)というこの日に会社は産声を上げた。中心となる事業は,スマートフォン向けアプリケーションの開発。吉田さんは筑波大学大学院を一時休学し,事業推進に勤しんでいる。2011年8月には,自社開発アプリ第一号「DREAM OWNER(ドリームオーナー)」のiOS版,海外版を併せてリリース。9月下旬にはAndroid版を公開した。このアプリは,GPS機能を利用して今自分がいる場所の周辺に実在するショップなどのスポットに立ち寄ったり,バトルを通じてそのショップのオーナーを勝ち取ったりと,競いながら世界一のスポット王を目指す仮想ゲーム。仲間と協力する要素もふんだんに盛り込まれている。業界内では「日本発の本格ソーシャルゲームとしては最有力」との評価もあり,新会社のスタートは順調だ。


筑波大学大学院に進学後,間もなく起業
早くも人気アプリを開発した吉田鐘一さん

京都市宇治市生まれの吉田さんは,大阪にある東海大学付属仰星高校に進学,野球部に籍を置くなどして青春を謳歌した。大学に進み経営・経済系の学部で学ぼうと塾に通うなどして複数の大学を受験したが,ITバブル人気で経済・経営系学部の倍率が高かったうえ「英語が苦手だった」(吉田さん)ためかすべて失敗。大きな挫折を味わった。「浪人して親に迷惑をかける訳にはいかない。それなら技術を身につけ,将来大学院に行く資格も取れる専門学校の4年制課程で学ぼう」と決め,「家にも近く,自由に勉強ができる雰囲気がある」との理由でKCG情報学科の門をくぐった。

「実はパソコン,KCGに入学して初めて触れたようなものだったのですよ」という。そのため「他人の倍以上,勉強しよう」という強い意欲を持ち「取れる資格はすべて取ろう」とも誓った。大学院受験の日を除き無遅刻・無欠席を貫いたことについては「丈夫に産んで育ててくれた親に感謝するばかりですよ」と謙遜するが,プログラミングの勉強に没頭し,基本情報技術者,ソフトウェア開発技術者,情報検定(J検)情報システム プログラム認定・SE認定を次々と取得。当時は卒業年次しか出場機会がなく,「負けるはずはない」と満を持して4年次に臨んだ卒業研究発表会KCG AWARDS 2010では,Windowsを対象にしたジョブ分散型クラスタリングシステム「WinCS」を発表し,見事最優秀賞に輝いた。

また,吉田さんの学生生活はさまざまな面で充実。3,4年次には中国・天津科技大学におけるインターンシップに参加し,Javaなどを現地の学生に教える経験をした。吉田さんは「中国の学生はすごいと思った。一人ひとりが明確な目標を持って貪欲に勉強している。勢いを感じました」と振り返る。ほかにもKCGIの学生でつくるMDDロボットチャレンジのチームに,KCGから唯一交じり,競技に出場。優勝の美酒を味わった。またプログラミングのアルバイトで出会った若き起業家にも影響を受けた。茶髪でTシャツ・ジーパン姿の30歳は,ビジョンを語るとき,またプレゼンをするときにはその姿・雰囲気と打って変わり,人を引き寄せるパワーと魅力を見せつけたという。「1を10にしようとしたのではダメだ。0から1を生み出さないと」。その言葉を胸に刻んだ吉田さんは「将来は自分も絶対に起業する」という思いを一層強くしたという。

吉田さんはKCG卒業を控え,早々に就職の内定はもらったものの,起業への思いを貫くため大学院への進学を模索。「研究部門に力をいれ,施設が整っていることが第一。それと,起業をするときのパートナーとめぐり会いたかったので,スーパークリエイターが揃っている大学院へ行きたい」。そのような思いで筑波大大学院への進学を目指した。同大学院は,経済産業省の外郭団体,独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が進める未踏IT人材発掘・育成事業(ソフトウェア関連分野においてイノベーションを創出することのできる独創的なアイディアと技術を有するとともに,これらを活用していく能力を有する優れた個人を,優れた能力と実績を持つプロジェクトマネージャーのもとに発掘育成する事業)に積極的で,スーパークリエイターを多く輩出している点も,起業を志す吉田さんにはピッタリだった。推薦入試に臨み,「KCGでの成績は『S』『A』が8割以上あったのでクリア。あとは小論文と面接で,夏ごろには合格が決まりました」と説明。KCG卒業を経た2010年4月,茨城県つくば市での初めての一人暮らしが始まった。

KCGで得た「サイエンス」の知識には絶対的な自信があった。しかし大学院で研究を続けていく上でネックになったのは数学と英語。「高校でも文系だったので,数学には手を焼き,大学受験を控えていた弟に教えてもらったほど。英語もある程度は自信があると思っていたのに,やはり英語の論文を読んで,まとめて,リポートを書く,となると苦労しました」と振り返る。


KCGでは皆勤
KCG AWARDSで最優秀賞を 勝ち取ったことが今の自信につながる

研究を続けながら,ソーシャルアプリやスマートフォン向けサービスを軸にした起業を模索。同じ研究室で,プログラマ,プランナの2人と出会う。しばらくしてベンチャーキャピタル事業・投資育成事業を展開するサイバーエージェント・ベンチャーズ社によるプロジェクト「Startups 2010」に挑戦することが決まった。「Startups 2010」は,同社が技術者やクリエイターを対象に,ソーシャルアプリやスマートフォン向けサービスなどの有望分野における新しいインターネットサービスの発掘と事業化支援を目的としたプロジェクトで,起業を志す若手を中心に100を超える参加があったという。吉田さんのチームはジオソーシャル育成ゲームを開発することになり,3人が力を合わせ自信作が完成,2010年9月には支援プロジェクト5つの中に選ばれた。支援プロジェクトには,同社が事業プランのブラッシュアップや事業運営資金の提供,会社設立後の事業拡大支援などを積極的に進めるとしている。吉田さんは,夢だった「起業」をぐっとたぐり寄せた。

絶好のチャンスが訪れたものの,大学院に進学してまだ半年足らず。「まだまだ学ばなければならないことはたくさんあるはず」との思いも交錯した。また「会社資金は自分で集めたい」という考えもあったが「若いうちは失敗しても,また勉強し直しやり直せる。せっかくのチャンスを生かさない手はない」と気持ちを切り替えた。2010年,街からはハロウィンのカボチャが消え,少し気の早いクリスマスソングが流れ始めた頃だった。吉田さんは起業に進み出すとともに,大学院の休学を決めた。

立ち上げた自社のホームページのフロントには「『!』を創造し,発信する。」と書き入れた。会社の使命として「高い志を持ち,一人ひとりに感動を提供する」とスタッフは心に刻んだ。次の目標はもちろん,プロジェクトに採択されたアプリのブラッシュアップ,そしてリリースだ。しかし思わぬ壁にぶち当たる。「採択されたビジネスプランは『ロケトモ』という別のサービスでした。それは,プラットフォーム寄りのジオソーシャルサービスで,コミュニケーションにベースを置いたものでした。しかし,開発が進むに連れてサービスが複雑になっていったこともあり,また,マネタイズの難しさを痛感しました」(吉田さん)ことから,廃案に。「2011年3月になって新しい案に切り替えることになったのですが,もともとジオソーシャルサービスをやりたかったので,ゲーム性を取り入れたDREAM OWNER(ドリームオーナー)を作ろうと思いました」という。それからは土日も休みなし。懸命の開発を続け,8月に「DREAM OWNER」リリースに漕ぎ着けた。起業から8ヵ月足らず,企画の練り直しという困難を経ての初リリースだった。

「DREAM OWNER」はリリース直後から高い評価を受けているが,吉田さんは「ある程度ユーザ数が伸びた時点で,リアル店舗などともタイアップを色々としたいです。僕は,営業もできるエンジニアなので,ガンガン営業して面白いコンテンツを考えていきたい」と気を緩めない。目標は「1年以内に300万人,2年以内に全世界で500万人ユーザの獲得」,そして株式上場だ。

「社長」になり,人脈も徐々に拡大中。「挑戦なくして実現なし」の言葉を胸に,人生経験を積み上げながら着々と成長している。「上場は5年後,30歳までに」も視野に入ってきた。「『Facebook』のような世界中で愛されるアプリを,ぜひ日本発で」。きっとその夢を実現させてくれるだろう。


人脈も徐々に拡大,上場も視野に入った。「5年後」が目標
株式会社Tryden(トライデン)
資本金:1176万円
所在地:東京都新宿区新宿4-3-17
ダヴィンチ新宿ビル6階 クロスコープ新宿内
設立:2010年12月