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ICTによる社会のスマート化

京都情報大学院大学 教授
髙橋 豊

14回目のKCGI創立記念式典が挙行されたKCGI京都駅前サテライト大ホール
14回目のKCGI創立記念式典が挙行されたKCGI京都駅前サテライト大ホール

京都情報大学院大学(KCGI)は2017年11月1日に14回目の創立記念日を迎えました。これに先立ち10月27日,記念式典がKCGI京都駅前サテライト(京都コンピュータ学院 京都駅前校)大ホールで挙行され,筆者が「ICTによる社会のスマート化」と題して,ICTの活用により社会の各方面で進展しているエネルギーの効率化やリスク軽減について講演しました。その内容を以下に御紹介します。

講演概要

  1. 自己紹介 Self-introduction
  2. 身の回りのスマート化具体例 Some examples of smart things
  3. 社会のスマート化 Smartening our society
  4. スマート化の背景 Historical background of smartening
  5. 今後の展望 Future topics
  6. 学生の皆様へ Messages to students

1 自己紹介 Self-introduction

恩師との出会い

2017年4月から本学で勤務し始めたばかりですので,自己紹介からさせて頂きます。筆者は京都大学工学部数理工学科出身です。同学科では学部4回生の時点で,特別研究(卒論)を行うために研究室に配属されますが,筆者が配属希望したのは長谷川利治先生(本学KCGI第二代学長:故人)が教授を務めておられた研究室でした。同研究室では,現在KCGI学長を務めておられる茨木俊秀先生が,助教授を務めておられました。加えて元大阪大学学長の宮原秀夫先生が助手として勤務されていました。国際性に富んだ錚々たる先生方が居られる研究室に配属されたことは,筆者にとっては大きな財産です。

本との出会い

大学院に進学し,筆者の今日に至る研究履歴の動機付けになりました本に出会いました。先生方から勧めて戴いた本で,Leonard Kleinrock著「Queueing Systems, vol.1 and vol.2, 1975」です。邦訳は,「待ち行列システム」です。その著者Kleinrock氏は80歳を超えましたが,UCLA(University of California, Los Angeles)の教授です。同氏は,この本のタイトルが示しますように,待ち行列の専門家です。これは数学的理論に関わっており,応用確率論の分野に属します。一方で,同氏のホームページには,自身を称して「Inventor of the Internet Technology」と書かれています。すなわち,ITの開発者,生みの親と自称しておられます。この具体例からも「待ち行列」と,今日のインターネットの技術が結びついている,というのが良く分かります。

インターネットの始まり(1969年)

Kleinrock氏は,1961年にMITで学位を取り,その後,1960年代の中頃にUCLAの教授になられました。研究室でまず取り組んだのは,4つの大学すなわち,UCLA,UCSB(University of California, Santa Barbara),SRI(Stanford Research Institute),UTAH(University of Utah)にあるノードを結んで,新しいネットワークの構築でした。これが,今日におけるインターネットの始まりです。1969年でした。同氏は待ち行列理論の大家であるとともに,4つのノードからなるパケット交換型のネットワークを実際に創ってみせました。それが,2020年にはホストの数が500億になると予測されているインターネットに拡大しています。ということは,単に技術的に,特にネットワーク工学的に優れた能力を持っていたというだけではなく,4つのノードから500億に至るまで基本的原理を変えずに拡大できるシステムを構成できました。このようにインターネットが拡大し得たのは,その理論的背景として数理科学的な考察の賜物です。

最初のスイッチ(IMP)

当時,4つのノードを繋いでいた機器はIMP(Interface Message Processor)と呼ばれ,今でいうところのスイッチの始まりです。今ではポケットに入る程小さいですが,当初は自動販売機程度の大きさでした。

TCP/IP

Kleinrock氏はネットワーク,それと待ち行列の大家であるとともに,優秀なお弟子さんを大勢育てました。その一人が,Vint Cerf氏です。我々は,インターネットと言うと,オウム返しのようにTCP/IPプロトコルと言いますが,同氏はこのTCP/IPの生みの親です。後にはこれらの功績で,コンピュータ・サイエンスにおける世界的な学会組織,ACM(Association for Computing Machinery)の会長を務めました。インターネットの基盤技術は,パケットを運ぶ手段であるネットワーク,それを支えるソフトウェア技術であるTCP/IPです。加えてネットワーク設計・管理のための待ち行列理論(あるいはトラヒック理論)です。ということは,ハードも,ソフトも,それを支える数学の理論も,Kleinrock氏の研究室で生み出されたということが良く分かります。拡大するインターネットの設計の支えになった本,それが上述の「Queueing Systems」です。この本に大学院時代に巡り合ったことは忘れ得ぬ思い出です。この本は理論と実際の融合の視点から執筆されており,非常に興味深いものであり,数理工学科で数学的な理論を中心に教育を受けたものの,何らかの応用にも関心のあった筆者にとっては,意義深い示唆に富む書物でした。

職歴

その後学位を取りまして,京都大学工学部数理工学科の助手にして頂き,その3年後に,フランスのINRIA(国立情報制御研究所)に1年間客員研究員として出張しました。帰国後引き続き,助教授,さらには教授になりましたが,その間,奈良先端科学技術大学院大学でも教授を務めさせて頂きました。また,フランスとも縁ができましたので,パリ大学の客員教授も務めさせて頂きました。

大学外での研究活動

ICTによる社会のスマート化について講演する髙橋豊KCGI教授
ICTによる社会のスマート化について講演する髙橋豊KCGI教授

大学で研究するだけではなくて,理論的成果がどのように応用できるかを知る観点から,産学連携にも興味がありました。その一例として,神戸にリサーチセンターを設置しました。これは通信放送機構(TAO),現在の情報通信研究機構(NICT)の前身,から研究支援を受けた研究プロジェクトで,そのプロジェクトリーダーを務めました。

リサーチセンターの設置期間は1998年2月~2001年3月で,ここでは,理論と実際の融合に努め,13億円の研究予算を頂き,「多段接続されたCATV網における通信・放送統合技術に関する研究開発」という題目で,研究開発を行いました。

具体的には,阪神電鉄の本線沿線の9か所のCATV局をATM(Asynchronous Transfer Mode)網で結び,「ATM技術におけるCATV接続の基本的特性の解明と制御技術」の検討を行いました。その当時まだATMは普及の初期段階でしたので,その特性を明らかにすることが主眼でした。ATMというのは,パケットを小さくして,セルと呼ばれる小さな単位で高速に転送しようという技術です。CATV局を接続したネットワークの上で,インターネット・トラヒックと映像トラヒックを統合した時にパフォーマンスがどうなるか,実地検証しながら理論的に調査検討しました。以上が,私の簡単な自己紹介です。

本題に入りまして,社会のスマート化に関して述べます。いきなり社会のスマート化を大上段に構えて述べるのではなく,まず我々の身の回りの具体例をいくつかご紹介します。

2 身の回りのスマート化具体例 Some examples of smart things

スマート(Smart)とは

「スマート」という言葉に関してはよくご存知のことかとは思いますが,まず辞書的な意味では,研究社の辞典によりますと,【活発な・きびきびした・すばやい】とか,【きびきびして機敏だ】とか,【頭の良い・賢明な】【気のきいた・抜けめのない・油断のならない・悪賢い】というのがあります。以下では,特に現代用語的な意味で【カッコ良く,ムダがない】というような意味合いで,社会のスマート化を考えていきたいと思います。

スマート商品・サービス

スマートというキーワードを冠した商品・サービスは多数ありますが,幾つか例を挙げます。

  1. SMART(Mercedes-Benz)
    メルセデス・ベンツ社のコンパクト・カーでヨーロッパでは多数見られます。車が好きな筆者には,一番身近な例で,自動車本体のスマート化です。
  2. スマートインターチェンジ(スマートIC)
    高速道路における従来のインターチェンジは工事の規模が大きいですが,そうではなくて,もう少し安価に小さなインターチェンジを作ろうと,パーキングエリアあるいはサービスエリアの片隅に,ETC搭載車を通行させる設備が供用開始しています。コストをかけずに高速道路利用の利便性を高めるスマート化です。
  3. Smart Contact Lens
    Googleが開発を目指しているコンタクトレンズです。コンタクトレンズにセンサーと微弱電波の通信回路を搭載しています。コンタクトレンズは眼球の上,さらに言うならば,涙の上に浮かんでいます。涙には色々なものが含まれていますが,センサーでグルコースの濃度を測り,血糖値の診断をするという先駆的なものです。従来ですと針を体の一部に刺して血糖値を測らざるを得なかったのですが,涙で痛い思いをせず,しかもレンズ装着中は常時測ることを目指しています。これは,スイスのNovartisという製薬会社とGoogleのジョイントベンチャーで,当初の計画では,既に市販されているはずだったのですが,開発上の問題で少し遅れているようです。
  4. Smart Tennis Sensor(SONY)
    テニスラケットのグリップエンドにセンサーを搭載し,打球データを収集するもので,テニス愛好家に向けたものです。
  5. Smart Basketball
    バスケットボールの中にセンサーを入れ,30mぐらいであれば色々なデータが採取できるというものです。

これらの他にも,例えばSONYのスマート・スピーカーがあります。新聞広告ではAIスピーカーと記されていましたが,一般的にはスマート・スピーカーと呼ばれるものです。これで音声認識をして,例えばWebを検索してテレビ画面に表示するなどの機能があります。 日本郵便にも,Smart Letterというものがあります。

これらに共通するものとしては,まず個人の便益の向上のために,既存の商品,あるいはサービスに付加価値を付けることです。このような商品は一般にスマート商品と呼ばれます。それを支えているコアな技術はICTです。通信情報技術です。その中でも特に重要なものが3つあります。まずはネットワーク基盤です。2つ目は無線通信で,物が移動しても柔軟に対応できる環境を構築しています。最後に3つ目は多様なセンサー技術です。これら3つが協調して,様々に利活用されるスマート商品を生み出す時代になりつつあります。

次に本稿の主要テーマであります社会のスマート化について,2例ご紹介します。

3 社会のスマート化 Smartening our society

社会のスマート化

現在,サステナブル(持続的成長可能)で,エネルギー消費と環境負荷へ配慮した社会を構築しようと様々な取り組みが行われています。この一環として,社会のスマート化があります。その目的は,既存の社会システムにおける様々な無駄,特にコスト,エネルギー,時間,を省くことです。加えて,リスク,事故,などの不幸な事象を減らすことにあります。具体的には5つのスマート化の例があります。すなわちガス供給システム,上水道システム,電気発送電システム,物流システム,および交通システムです。わが国ではこの5つのシステムのスマート化が図られつつあります。

本稿では,紙幅の都合上,電気発送電システムのスマート化,それに続き交通システムのスマート化についてだけご紹介します。

電気発送電システムのスマート化の事例としてよく挙げられるのは,スマートメータおよびスマートグリッドです。更に,これらの発展形であるスマートシティあるいは,スマートタウン,スマートコミュニティ,スマートハウス,スマートファクトリー,スマートビルディング,など電力の使用効率向上に向けた様々なスマート化があります。そのための主要技術は,やはりICTにおけるネットワーク,無線通信,およびセンサー機器です。これは先程のスマート商品と基本的には同じです。

スマートグリッド

スマートグリッドはご存知の方が多いと思いますが,次のようなものです。まず,電力グリッドという言葉があります。グリッドは格子を意味しますが,格子状に設置した配電システムに起因します。出発点はアメリカの東部に位置する五大湖近辺です。この周辺には自動車産業を始めとする重工業の生産工場が世界に先駆けて立地し,大量の電力を必要としていました。ところが,この辺りには小さな電力会社が点在し,時には電力不足を起こす会社もありました。電力不足による停電が起こると生産ラインが止まるので,複数の電力会社が協力して電力の融通を行います。日本でも,例えば2011年の東北の大震災の時には,東京電力の発電量が非常に欠乏した時に,他の電力会社が電力の融通で協力しました。電力グリッドが構築されていたお蔭でした。この電力グリッドをもっとスマートにするのがスマートグリッドの考え方です。

火力,水力,風力,原子力,太陽光,地熱などの発電による電力の供給側とそれを使用する,工場,家庭,オフィス,エコカーなどが電力グリッドで繋がっています。それをスマートにするためには,電力の供給と需要に関する情報を共有するための通信ネットワークが必要です。このような電力グリッドと通信ネットワークを統合したものがスマートグリッドと呼ばれています。

電力需給の見える化

電力システムを効率化するためには,電力の供給と需要の見える化をする必要があります。家庭の電力量計の形状が近年変わりつつあります。従来の電力量計を設置した需要家には,電力会社の検針員の方が毎月検針に来られ,消費電力量の計算が行われています。しかし電力の供給と需要のマッチングを行い,発電の効率化を行うには1カ月に1回のデータ収集では粒度が荒すぎて役に立ちません。これをもう少しきめ細かく計量することを可能にするのがスマートメータです。現在電力会社管内では,従来の電力量計がこのスマートメータに置き換わりつつあります。これにより各需要家の電力使用量を30分毎に計測を行います。従来は1カ月単位であったものが,30分単位で電力消費データが集まってくると利用の実態がより詳しく分かり,発電計画の精密化が可能になります。

スマートメータ(Smart Meter)

スマートメータは2007年に検討が開始されましたが,普及には時間がかかっていました。しかし,東北の大震災をきっかけに,電力危機が生じ,設置が加速されました。政府は,2014年から5年間で全国にスマートメータを8割普及させようと目標を設定しました。電力量計は,10年に1回更新していますが,その取り換えのタイミングを短くすることはなかなか難しいので,基本的には各電力会社は10年間を要して,取り換えようとしています。例えば,関西電力管内を調べますと,2017年10月末の段階で,843万台が既にスマートメータに取り替わっているようです。関西電力管内の総台数は1300万台,一方,東京電力管内は2700万台です。東京電力管内ではオリンピックもありますので,2020年までにはすべて取り換えたいという計画で進んでいるようです。いずれにしても,我々の身の回りのメーターがどんどんスマート化されている。その結果,非常に詳細なデータが手に入る,そういう時代を迎えつつあります。

電力需要の変化

次にスマートメータで集めた電力消費量データの利活用を考えます。電力需要量の1日および季節ごとの変動を見てみると,季節による変動と24時間での変動があります。どの季節も当然の事ながら,一番ピークを迎えるのは,午後の少し過ぎた頃,お昼ご飯を食べ終わった頃になります。特に夏は,電力需要量のピーク時とオフピーク時に大きな差が見られます。電力会社が抱える一番の問題は,発電設備は,ピークを想定して建築しないといけないことです。さらには給電不足による停電を防ぐために,数%の余裕をもって発電計画を立てる必要があることです。使用されずに残る,この余剰電力は主に揚水発電などで一部は後の利用に供されますが,大部分は無駄になります。バッテリーに蓄電できれば無駄が削減できますが,現時点では難しいようです。代替案としては,需要状況をリアルタイムにより精密に把握し,需要に近接した発電を行い,無駄な発電量を削減することが挙げられます。

電力会社の発電はおよそ次のように計画されています。ピーク時の変動を除いたベース電力の過半は原子力発電で安定的に供給をしていましたが,今は多くの発電所が停止しています。ベース部分を超える変動は水力,揚水さらには火力で発電します。需要状況の見込み精度が増せば,火力発電量が削減でき,エネルギー消費が減り,CO2排出量も抑制されます。スマートメータを導入する目的は,このように無駄な部分を削減することにあります。

自然エネルギー発電

最近は電力会社にとっては悩ましいことが起こっています。家庭などで設置されている太陽光パネルです。電力会社は,このパネルが発電した電力を買い取らなければなりません。このような電力を,逆潮流と言いますが,この逆潮流も考慮して発電しないといけないので,ますますスマートメータで,データを密に取ることが求められる時代になっています。

HEMSとの連携

スマートメータにより電力使用量の計測が変わりつつあることは既に述べましたが,各家庭でも宅内電気機器の消費電力が宅内ネットワークを介して計測ができつつあります。例えばエアコン,洗濯機,冷蔵庫などが,どれだけ電力を消費しているとか,分かるようになってきました。いわゆる消費電力の見える化です。家の中でこのようにネットワークを介して電力使用管理を行うことを,HEMS(Home Energy Management System)と呼んでいます。HEMSおよびスマートメータを活用すると,単に1家庭が使う電力の総計だけではなくて,どの機器がどれだけ使っているかも合わせて計測できる,そういう時代になりつつあります。

AMI(Advanced Metering Infrastructure)

以上述べたように,各家庭にスマートメータが設置されようとしており,さらにはHEMSによりそれぞれの電気製品毎に電力消費データが取れる環境が実現しつつあり,これをスマートハウスと呼びます。ではこれら収集したデータを如何に電力会社に送り届けるかが問題になります。インターネットに繋いだら簡単であると思われるかも分かりませんが,インターネットに繋ぐには2つの問題があります。インターネットの使用料金は,各家庭が払っています。電力会社が収集するデータを送信する経済的負担を各需要家に課すことには問題があります。さらには,電力使用に関するデータは,非常に重要な個人情報ですので,インターネットで送信することには躊躇いがあります。例えば,電力消費がゼロであれば,この家は留守である可能性が高いということが分かります。従って,スマートメータのデータを如何にして電力会社が吸い上げるか,ここが電力システムのスマート化のキーポイントです。

解決策として,電力会社は自前のネットワークを作り上げつつあります。現状ではその形態が3種類あります。一番代表的なものは,各家に設置されたスマートメータに無線通信機能を持たせ,メーター間で情報転送を行う方式です。これを繰り返し,いわゆるバケツリレー式にデータを集めます。最終的には電柱等に設置されたコンセントレータで当該の住宅街のデータを集約し,さらにその先は電力会社が保有するネットワークで集めるのが1つの解決策です。この方式では一般家庭に何ら経済的負担無しでデータ収集のためのネットワーク構築が可能になります。さらには,電力会社独自のセキュリティ技術が使えるので,プライバシーの確保がある程度できることになります。2番目の解決策が,PLC(Power Line Communication)を使うものです。PLCというのは,電力線を介して情報伝送を行う方式です。PLCはかつて家庭内のネットワークであるLAN(Local Area Network)を構築する方式として有望視されましたが,無線LANの技術向上のため,広くは普及しませんでした。3番目は,住宅が密集していないなどの理由でマルチホップ転送が難しいところでは携帯電話の3G,4Gを使う方式です。

スマートメータからこれら3種のネットワークのいずれかを介してコンセントレータに至るまでのネットワークをFAN(Field Area Network)と言います。HEMSあるいはスマートメータから,最終的に電力会社に至るまでのネットワークをAMI(Advanced Metering Infrastructure)と呼び,ここではいわゆるIPネットワークの技術が使われています。

ビッグデータの活用

電力会社はスマートメータから集まってきたビッグデータをどのように活用するか考えてみましょう。まず,最初に重要なのは,発電計画の策定です。従来ですと1カ月に1回のデータでしたので,日々,さらには時間毎の急激な変化には即応しない発電計画を立てていました。スマートメータの導入で,温度,天気などに応じて無駄が抑制された発電計画を立案できます。

一方,最近は電力の売り買いの市場ができ,余剰電力と不足電力のマッチングを行っています。電力会社にはこれまで述べたように電力が余る時期・時間があります。さらには,例えば鉄の工場では鉄の需要が減少した場合でも高炉は安定して稼働させたいので,その火力を発電に使い売電したい時もあるように,電力会社以外に電力の供給元が出てきます。逆に発電能力を超えて需要が発生した電力会社,あるいは自前で発電するよりも低廉に電力が購入できる需要家が出てくる可能性もあります。この市場においては電力消費に関するビッグデータが利活用されます。

さらには,Demand Responseのためのデータ活用があります。これは変動の激しい電力消費量のピークを抑えるための施策です。電力会社はピークに合わせて発電設備を設置し,発電計画を立案します。しかしピーク値が継続するのは短時間であり,残りの大部分の時間では設備に余裕があります。従ってピークが低くなり,需要が平滑化されると発電所の効率的な運用が可能になります。そのためにはピーク時における電力使用をオフピークに導くことが考えられ,その動機付けとしてピーク時の電力使用単価を高く,オフピーク時には低く設定するのが有効で,これをDemand Responseと呼びます。その結果,例えば電力会社の発電コストが軽減されるのはもちろんですが,発電所の効率的運用が可能で,CO2の排出量の削減も期待でき,また化石燃料の安定調達につながります。

電力網・通信網連携によるエネルギー消費のスマート化

以上まとめますと,電力グリッドのスマート化とは,電力網を介して繋がっている電力の供給者と需要家が,情報ネットワークにより使用量,電力単価などの情報を細かな粒度で共有し,電力網・通信網連携によるエネルギー消費の効率化を図ることです。

スマートコミュニティ(Smart Community)

今後はスマートグリッドをさらに推進し,スマートコミュニティを作ることが期待されています。その具体的なイメージとして,プラグインハイブリッド車の活用があります。この車には大きな容量を持つバッテリーが搭載されています。この車で,ショッピングセンターに買い物に行き,駐車場に停めます。昼頃の,電力消費がピークに達する頃には,多数の車が駐車場に並んでいます。その時に,先程のDemand Responseが本格運用されますと,電力単価が高い時間帯になります。そうすると,ショッピングセンターはより安価な電力源を探します。その可能性のひとつが駐車場の車から電力を運転に支障のない範囲で購入することです。車は家に帰ると単価の安い夜間に充電することができます。同様の例として,プラグインハイブリッドに乗って,工場に仕事に行く場合を挙げられます。駐車場に停めて仕事を始め,午後になると電力消費のピークを迎え,工場が契約する電力単価が上がります。そこで,駐車場に停まっている社員の車のバッテリーから電力を少し安価に購入し,ピーク時の負担を軽減することが考えられます。これはスマート工場の一環でもあります。

いずれにしても,エネルギーを社会全体で効率的に消費するのが,スマートコミュニティという考え方です。

社会システムのスマート化の鍵

社会システムをスマート化する目的は,①エネルギー消費,待ち時間などの無駄の排除,②コスト削減,③便益の向上です。これを実現する要素技術は,情報ネットワーク,無線通信技術,さらには各種センサーやICタグなどの電子機器です。

ここまでは技術的に解決できても,問題はまだ残っています。社会システムでは多数のコモディティ機器がネットワークに接続されます。スマートメータは2000万,あるいは3000万台がネットワークに繋がっていきます。その時に,台数のスケールが急速に大きくなってもシステムの可用性を減じることなく性能が維持されることが重要になります。このようなシステム設計はスケーラビリティがあると呼ばれます。本稿の冒頭で紹介したようにインターネットは4つのホストから始まりましたがホスト数が増えても,その基本的原理を変えずに,スケーラビリティのあるシステムになっています。

電力システムのスマート化においても,同じようにスケーラビリティが確保できるかがポイントです。これを判断するには,システム設計を数理的に検証する必要があります。数理モデルを構築し,解析・評価・検証を行わねばなりません。具体的な例として,スマートメータの設置目的として,30分間隔で消費電力量を収集することがあります。2000万台を超えるスマートメータから30分毎にネットワークを介してデータをはたして首尾良く受信できるかを設計段階で検討しなければなりません。このことはシステムのサービス品質であるQoS(Quality of Service)を評価することで可能になります。このような大規模システムのQoSは実際にものを作って計測することは叶わず,数理モデルに基づく検討が重要になります。さらには実運用で得られた大量のデータを利活用し,運用の効率化を図るには,最適化など数理的なアプローチが不可欠です。

電力システムのスマート化に関して,筆者がこれまでに関わった研究内容は次の通りです。上述の無線マルチホップ・ネットワークをベースとするAMIで,スマートメータのデータを転送するプロトコル,マルチホップ・ネットワークの最適なトポロジー構成,スケーラビリティなどを理論的に考察しました。

交通システムでのスマート化

続きまして,2つ目の例として,交通システムのスマート化を述べます。まず,交通状況の現状をまとめます。日本国内の自動車保有台数は,2017年7月末時点で約8000万台です。それらの車が起こす交通事故が,2016年では約50万件ありました。同年の死亡者は約4000人です。交通事故死者数に関しては1948年からデータがあり,1970年頃にはピークを迎え16000人を超える方が亡くなられました。今ではその4分の1にまで減少しましたが,警察庁および総務省では更なる削減を目指しており,2014年には2018年時点で2500人にする目標を設定しました。

事故の原因を探りますと,当然の事ながら,ドライバーの運転ミスが約9割を占めています。この運転ミスを防ぐ為の施策のひとつが交通システムのスマート化です。

交通システムでのスマート化

亡くなられた方の状況を分類しますと,自動車の乗車中は1322名。自動二輪は447名,歩行中は1534名です。交通事故死者数を減らすには,この大きな数字,自動車・二輪運転中,加えて歩行中,の死者数を減らすことが非常に効果がありそうです。これらほとんどの事故が運転者の操作ミス,ケアレスミスに起因しているようです。その中でも特に,車々間の出会い頭,右折車と直進車の衝突など,車同士がぶつかるというのが大きな要因を占めており,加えて歩行者の巻き込み事故が多くを占めています。これを解決する方策が,運転者のミスを,車同士で通信を行い回避することです。すなわち車々間通信でヒューマンエラーをリカバリーする方法です。もうひとつは,運転支援システムです。年と共に増える高齢運転者では視力が落ち,特に歩行者が見えづらくなったり,ブレーキとアクセルを間違って操作するなどで歩行者を巻き込んだ死亡事故を招いています。このリスクを回避するために,最近ドライブセーフティ技術が導入されています。例えば,歩行者を自動認識して警報を出す,あるいはブレーキをかける,などの補助をする運転支援システムなどがあります。この2つの技術,すなわち車々間通信とドライブセーフティ技術で,交通事故犠牲者をさらに減少させる取り組みが進んでいます。

交通渋滞の現状

続いて,渋滞を減らす取り組みをご紹介します。交通渋滞の現状ですが,平成27年3月のデータでは日本全体で延べ約50億人時間の渋滞が発生しました。一人あたりに換算すると,年間の渋滞損失時間は約40時間です。一方,運転者が車内で過ごす時間は平均で約100時間というデータがあります。ということは,乗車時間の内の4割の時間を渋滞の中でボーっと待っていることになります。これを何とか緩和したい,というのが次の目標です。運転者にとって望ましいだけではなく,エネルギー消費の観点からも積極的な推進が期待されるものです。

追従走行による渋滞緩和

渋滞緩和にも車々間通信が有効的に機能します。走行中の車がトンネル,上り坂,カーブに差し掛かると,運転に慣れないあるいは未熟な運転者は必要以上にスピードを落とし,先行車から遅れ,交通の流れを乱す場合があります。その結果後続車はブレーキをかけざるを得なくなります。その原因は先行車のスピード変化に気付くのに遅れがあるからです。交通量が多い場合にはこの気付きの遅れが雪だるま式に膨らみ,その結果後続車両が停止する事態になり,これが渋滞の主要因になっています。テレビ番組で「渋滞の先頭車の運転手は何をしているか?」というクイズが出され,その答えが「アクセルを踏み込んでいる」というのを視聴しますが,まさしく先行車と開いてしまった車間距離を回復すべく加速している様子を捉えています。

渋滞を緩和するにはこの「気付きの遅れ」を小さくすることが有効です。実際に高速道路に定速で走行するペースカーを走らせ,後続車はそれに追従する実験を行うと渋滞が緩和したという報告があります。先行車の速度,車間距離を運転者の目視ではなく,車々間通信で情報交換することで「気付きの遅れ」が減少します。前の車のスピードが落ちた,あるいは何らかの理由でブレーキを踏んだ,それがすぐ後ろの車に伝わり,後続車も遅れなしに同じ動作が行えます。これで渋滞緩和および事故防止をすることが可能になります。

ここまで2つの話題をご紹介しました。次に,このようなスマート化への世の中の動きはいつ起こったか。それを筆者の観点から述べさせて頂きます。

4 スマート化の背景 Historical background of smartening

サービス・サイエンスの始まり

出発点は2004年12月に報告されたInnovate Americaと呼ばれるレポートです。2001年から始まったアメリカのブッシュ政権の下で設けられた競争力評議会(Council on Competitiveness)への報告書です。ブッシュ政権は第1期を終えるにあたって,第2期へのビジョンを考えました。その当時頭を悩ませていたのは,1980年代および90年代においては,日本の産業競争力が高まり,アメリカの相対的な優位性が下がったことでした。さらに,中国も迫ろうとしていました。今後,アメリカが世界のリーダーシップを維持し続けるためにはどうあるべきか,ということを検討課題に委員会を設けました。その委員会で座長を務めたのが,Samuel J. Palmisano氏で,当時IBMの社長でありCEOでした。同氏を中心に,大学関係者,実業家,あるいは政治家が集まり,上記レポートをまとめました。要するに,アメリカを改革するためにどうあるべきかという視点で書かれています。世界の労働者人口のトップ10カ国(中国・インド・アメリカ・インドネシア・ブラジル・ロシア・日本・ナイジェリア・バングラデシュ・ドイツ)における産業別労働者数の過去200年の変遷を振り返り,いずれの国においても第1次産業および第2次産業から第3次産業への急速な労働者移動が起こりつつあることを指摘しています。第2次産業においては日本,中国などの追随が激しく,今後は成長分野である第3次産業(サービス業)の改革を促しています。この分野においては他の分野に比べ,科学的アプローチによる効率化・最適化が遅れており,ここに注力することでアメリカのさらなる発展の可能性を示唆しています。

同レポートの序文には非常に刺激的な表現である「Innovate or Abdicate(改革するか,あるいは衰退するか)」が掲げられ,イノベーションを起こすためにはどうあるべきかがまとめられています。これがきっかけとなり,我が国のみならず,主要国でイノベーションというキーワードが叫ばれるようになったのはご承知の通りです。従来,効率化・最適化が意識されてきたのは第2次産業,すなわちモノ作りの場であり,今後は社会全体の効率化・最適化が肝要であり,このためには第3次産業の改革を主張しています。これを端的に表現するのがイノベーションです。まとめると第3次産業のスマート化です。

イノベーションを起こすためには,①発明,と②発明を利活用する見識,が必要と述べています。この2つの条件が交差したときに,炎が燃え上がるようにイノベーションが生まれると説いています。

教育・研究の場においては先端的研究および学際研究の再活性化が必要であり,その中心的考え方のひとつとしてサービス・サイエンスを挙げています。サービス・サイエンスと一括りにしていますが,第3次産業を科学する,要はスマートにするということです。教育機関における体系としては,コンピュータ・サイエンスはもちろん重要ですが,加えてサービス・サイエンスのカリキュラムも必要と思われます。主要な分野としては,コンピュータ・サイエンス,オペレーションズ・リサーチ,生産工学,経営管理科学,意思決定科学,社会科学,法科学などが挙げられます。著作権などの問題もありますので,法科学も絡んできます。

日本の対応

このレポートを受け,我が国も対応を迫られ,10年前,政府は経済成長戦略大綱(平成18年7月6日)をまとめました。抜粋しますと,①生産性向上で出遅れているサービス産業の革新が欠かせない。重点分野を中心にその生産性を抜本的に向上させることにより,製造業と並ぶ「双発の成長エンジン」を創りたい。製造業プラスサービス,これを双発のエンジンにしたい。②大学等において,経済学などの社会科学,工学などの自然科学等の融合による新たな知識の体系化を通じ,我が国経済におけるサービス産業の重要性に対応した教育モデルの構築を図る。以上が政府が出した方針です。

さらには,第4期科学技術基本計画(平成23~27年度)において,「機械や自動車,電機等の最終製品の国際競争が激化する中,新たな付加価値の創出に向けて,次世代交通システム,スマートグリッド等の統合的システムの構築や,保守,運用までも含めた一体的なサービスの提供に向けた研究開発を,実証実験や国際標準化と併せて推進するとともに,これからの海外展開を促進する」と謳われています。

世界の対応

次に世界はどう動いているかを述べます。2016年1月にダボス会議(第46回世界経済フォーラム)が開かれました。スイスのダボスで毎年開催され,政治家のみならず学者,実業家など世界の首脳が一堂に集まる会議です。

同会議でなされた提言があります。まずこれまでの歴史を振り返ると,第1次産業革命が蒸気機関で始まりました。第2次産業革命は内燃機関で始まり,自動車のエンジン,電力などが導いた大量生産の時代を迎えました。第3次産業革命はICTによる革命です。これからは第4次産業革命が起こると予測しています。その根幹にあるものは,インターネットとこれを運用するための膨大な電力であり,その重要性を指摘しています。さらに,サステナビリティ(持続発展可能性)と産業革命を両立させるためには再生可能エネルギーが重要であり,さらに,インターネットをそのエンジンとしながら,あらゆる社会のインフラの在り方を変えていく必要性に言及しています。以上が2016年に,世界の首脳が集まって話し合った内容で,一口でまとめると社会のスマート化と思われます。

5 今後の展望 Future topics

筆者が今興味を持っているテーマで社会のスマート化に関わる3つの話題を述べます。

ソフトウェアによるネットワーク管理・運用

1つはネットワークのスマート化です。ネットワークにはルータ,回線などのハードウェア機器が付き物ですが,これらの管理運用に多大の手間と時間を要しています。その多くは個別の設定が必要であり,しかもベンダー毎に仕様が異なり,種々のノウハウと経験が必要です。これの効率化を図るためにソフトウェアによるネットワーク管理・運用を目指して取り組みがなされつつあります。従来ですと,高価な交換機やスイッチの導入,保守管理に選任のオペレーターが張り付いて,初期設定,更新などを行ってきました。これを,ソフトウェアを活用してスマート化を図りつつあります。これらネットワーク機器が持つ機能は大別して2つあります。すなわち,①パケットを転送する機能,と②転送を制御する機能です。人間の身体に譬えると,前者は手足で,後者は頭になります。手間と時間がかかるのは頭である制御の機能です。各機器が転送機能と制御機能を合わせ持つのではなく,これらを分離し,転送機能はスイッチに残し,コストのかかる制御機能をコントローラに集約し,各コントローラが適当な数のスイッチを束ねるネットワーク・アーキテクチュアへの移行が進行中です。副次的な効果として各スイッチが簡易な機能しか必要とせずコモディティ化が可能で,価格の低廉化が図れます。このように汎用のハードウェアをソフトウェアで統一的・柔軟に操作可能にする考え方がSDN(Software Defined Network)です。これが現在進行中のネットワークにおけるパラダイムシフトです。

フォグ・コンピューティング(Fog Computing)

前述のSDNはAmazon,Google,Facebookなどネットワークを活用したビジネス展開をする新興会社が推進役となっています。一方,交換機,スイッチなどの製造業各社は,その付加価値が下がり困った状況になります。従来の高価なスイッチを販売していた会社はビジネスチャンスが減少するため,次の手立てを考えます。対抗策はFog Computingです。クラウド・コンピューティング(Cloud Computing)は広く普及していますが,これには問題点があります。クラウド環境で何らかのサービスを受けるときには,送出されたリクエストは多くの場合,ネットワークを介して雲(クラウド)の中,はるか彼方にあるサーバで処理を受け,その結果がまた遠路戻ってきます。ここにおいて,2つ問題点が生じます。①ネットワークの遠方に位置するサーバとの間を往復するに要する時間,②クラウド・サービスの使用は益々増大することが見込まれ,その結果ネットワーク内トラヒックが増し,渋滞が発生すること。これを解決するために提唱されつつあるのが,Fog Computingです。すなわち,はるか彼方の雲の中にサーバを置くクラウドではなく,もっと身近に発生する霧(Fog)の中にサーバを設置するものです。雲をもっと手許に引き寄せる考え方です。

Networks of Drones

ドローンのネットワークを作るというテーマです。ここでは空中で飛行するドローンを用いてアドホック・ネットワークを構築することを考えます。ドローンは無線で操縦しますが,無線電波が届く範囲は非常に狭く,かつ山などの遮蔽物で遮られ,ドローンの飛行範囲は大きな制約を受けます。この制約を何とか緩和し,行動範囲を拡張したいという要望があります。山の向こう側が見たい,地震・台風などの自然災害の被災状況の広がりを知りたい,遠くまで緊急物資を届けたいなどの状況では行動範囲の制約は大きな障害になります。これをドローンの数珠つなぎで解決し,通信範囲の拡大を図ります。前述のスマートグリッドにおけるAMIのように,中間に位置するドローンが中継器の役割を果たし,ドローン群の活動範囲を広げると,緊急時に即応性の高い情報ネットワークと輸送ネットワークの構築が可能になります。具体的にはまず1機目のドローンが飛び立ち,目的地方向に向かいます。通信範囲の限界が近付くと2機目が飛行し,操縦者と1機目の通信を中継します。必要に応じてさらに後続のドローンを飛行させることで当初の目的が達成されます。これはドローンとアドホック・ネットワークの利活用であり,安価なものを上手く融合すれば,大きな利便性を持つスマートなシステムを構築できる一例です。

6 学生の皆様へ Messages to students

学生の皆様へ一言

最後に将来を担う若い学生の皆様へメッセージを記します。

まず,本稿で述べましたように,第1次および第2次産業から第3次産業へと労働環境の変化が急速に進んでいます。すなわち,20世紀の「人,物,金」から21世紀の「サービス,ソフトウェア,データ」の時代へ,製品提供からサービス提供へ,あるいは,製造業からサービス産業へ移ろうとしています。このような時代に,求められる人材はどうであるか考える必要があります。エンジニアのように,一つのことに特化して専門的によく知っていることも重要ですが,今後は幅広いことに精通している人材がより一層求められます。端的に表現すれば,エンジニアよりは指揮者あるいはプロデューサーのような役割が期待されます。演奏会のオーケストラの指揮者のように,色々な楽器の音色をうまく引き出せる。そういう人材がこれから求められます。そういう意味で,1つのことに尖がった人よりも,複数のものに足場がある人がこれから求められる時代になります。このことを意識して本学での勉学に励んで戴きたいと思います。

ICT人材の不足

さらに,皆さんを動機付けるデータがあります。2017年10月1日に掲載された読売新聞の記事に,『人工知能やIoT,ビッグデータなどに関連する人材が,2025年に関西で42000人足りなくなる』とあります。さらに日本全体では『2025年には不足率は62%に達します』と記されています。皆さんは大いに期待されていますので,その期待に応えるべく研鑽を積んで下さい。

この著者の他の記事を読む
髙橋 豊
Yutaka Takahashi
  • 京都大学工学士,同大学院修士課程修了(数理工学専攻),同大学院博士課程研究指導認定退学(数理工学専攻),工学博士
  • 京都大学名誉教授,元京都大学大学院情報学研究科教授,元奈良先端科学技術大学院大学教授,元パリ第11大学客員教授,元INRIA(フランス国立情報制御研究所)客員研究員
  • 日本オペレーションズ・リサーチ学会フェロー
  • 通信・放送機構(TAO)「多段接続されたCATV網による通信・放送統合技術に関する研究開発」統括責任者(プロジェクトリーダー)

上記の肩書・経歴等はアキューム25号発刊当時のものです。