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Accumu 最新号・Vol.25

産業界において今後IT人材の果たす役割と必要なスキル

京都情報大学院大学 教授
田中 久也

急発展を続けるITの変化は,あらゆる業界に影響をもたらして来ており,従来の産業構造に大きな変化の波が来ています。また個人にとっても働き方や生活全般においてITによる変化が起きています。こうした状況下で産業界は今何を目指しているのか,ITエンジニアは何を求められているのか,ITを学ぶ学生がどんな力を身につけていくべきかを述べます。

1 デジタル大変革時代の到来

環境が大きく変わる時,それにそぐわないビジネスは淘汰されていく,これは過去の経験からも逃れられない事実です。今ITが産業の環境を大きく変えつつあります。新たな製品の開発だけでなく,製造,流通,販売の形態がITにより大きく変わりつつあり,また個人の働き方や生活の形態もITを基盤としたものになっています。こうした状況下で,従来の企業のビジネスも時代にあった形に変化せざるを得ません。

企業が従来のビジネスモデルや組織構造をITによって変革すること,個人の生活や社会構造まで変化すること,これはデジタルトランスフォーメーションと呼ばれています。図1参照

実際に企業の変革に対する認識はどうなのか,今年度のIT人材白書では,ネット企業やIT企業,ユーザ企業の順で既に変化の中にいるという割合が多くなっています。変化に対する逼迫感には企業間ではまだ差がありますが,既にデジタルトランスフォーメーションが始まっていると考えている企業が増えているといって差し支えないといえます。図2参照

図1(IT人材白書2017より引用)
図1(IT人材白書2017より引用)
図2(IT人材白書2017よリ引用)
図2(IT人材白書2017よリ引用)

2 ITサービスのユーザ企業の利用状況とIT企業のITサービスの提供状況

デジタルトランスフォーメーションの変化を感じ取っている企業がどのようなITサービスを利用しているか,またIT企業はどのようなサービスを提供しているのでしょうか。

デジタルトランスフォーメーションの変化を感じ取っている企業では,ウエブサービスやSaaSアプリの活用,モバイルアプリやIoTの開発,ビッグデータやAI活用のアプリ開発に取り組み始めています。図3参照

図3(IT人材白書2017より引用)
図3(IT人材白書2017より引用)

3 デジタルトランスフォーメーションを推進するリーダーの重要性

1 企業におけるデジタル推進体制

企業においてデジタルトランスフォーメーションはどのような形で推進されているのでしょうか。IT人材白書の調査によると,変革を進めている企業においては,経営者とデジタルトランスフォーメーションを推進するリーダーの役割の重要性が述べられています。図4参照

図4(IT人材白書2017より引用)
図4(IT人材白書2017より引用)

2 デジタル化の推進をリードする人材に必要な能力と環境

デジタル化の推進をリードする人材に求められる能力とは何でしょうか。IT人材白書では,”他人を巻き込む力“,”ビジネスとデジタルの知見“であると述べられています。また,デジタル化を推進するリーダーが育ってきた背景は,”多様な経験と新しいものへの挑戦“,”ネットワーク,外部とのつながり“があると述べられています。

従って,そのようなリーダーを育てるためには,新たなことへの挑戦を許容する。外部への開かれた環境。失敗体験を積めるなどの企業文化,環境作りが重要と述べられています。図5参照

図5(IT人材白書2017より引用)
図5(IT人材白書2017より引用)

リーダーの具体的な能力としては,もともと製品の社内開発・運用を行ってきた企業の場合,社内に既存の技術力はあり,加えてITの技術(データ解析やAI,クラウド等)が求められています。また,個々の要素技術だけでなく,システムの構造設計を行い開発する能力(システムアーキテクト)の重要についても挙げられていました。一方,これまでITが深く関わっていなかった事業がデジタル化した場合,今までIT部門が行っていた外部企業への開発委託を事業部門が直接行うことになり,ITを事業に適用する能力や,機能設計や要件定義を行う能力が求められています。

こうした人材はどのように企業内で育ってきたのでしょうか。

事業のデジタル化に必要なIT能力を,既存の人材でまかなうのは難しく,ネット系の企業等でデジタルビジネスの経験がある者を中途採用し,事業の推進を行っている例が見られます。

しかし,新しい技術(データ活用やAI,IoTなど)を持った人材に関しては,中途採用も難しく,新卒採用した人材を育成して人材確保する傾向にあり,新卒を採用する際に理数系人材を重視し,育成のスピードアップと高い技術力を持った人材の輩出につなげたい考えであると述べられています。

図6(IT人材白書2017より引用)
図6(IT人材白書2017より引用)

4 ITを学ぶ学生への提言

現在,ITを学んでいる学生に前述の環境を踏まえて,今後デジタルトランスフォーメーションの担い手として活躍するため,にいくつか提言したいと思います。

1 IT人材は継続的に不足しており,努力しだいで大いに活躍できる。

ITはあらゆる産業の基盤であり,イノベーションに必須な技術であるため,今後も産業界で活躍する場所は多く努力次第で大きく活躍できます。人材不足の状況を図6で示します。特に,近い将来,企業のデジタルフォーメーションのリーダーとしての役割を担える能力を身につけることを期待されています。

2 直近で,求められているIoT関連の要素技術。(就職で優位な技術)

現在,多くの産業で製品やサービスにITが組み込まれつつあり,IoTと呼ばれています。特に不足している人材として,組込みやモバイル系のソリューションの技術者が挙げられています。特に重視される要素技術は,組込みでは,ウエブ技術,セキュリティ,オープンソフトウエア,スマートデバイス,デザイン力。モバイルソリューションでは,M2M(制御,センサー関連),ビッグデータ,ワイヤレス,セキュリティなどが挙げられています。この分野の技術を強めれば,直近の就職で優位になると考えます。大学での勉強に加え,是非意識して自ら学んでください。図7参照

図2-2-25 組込み技術者が現状必要と考える技術力/今後必要になると考える技術力20
図2-2-25 組込み技術者が現状必要と考える技術力/今後必要になると考える技術力20
図2-2-14 今後,モバイルソリューションにおける技術で重要となる領域11 図7(IT人材白書2015より引用)
図2-2-14 今後,モバイルソリューションにおける技術で重要となる領域11
図7(IT人材白書2015より引用)

3 将来,デジタルトランスフォーメーションのリーダーとなるために磨くべきスキル。

近い将来,期待されている企業内でのデジタルトランスフォーメーションのリーダーとなるために必要となるスキルを今から磨いておくと将来大きく飛躍できるでしょう。

リーダーに必要とされるのは,デジタルの知見,ビジネスの知見,他人を巻き込む力です。

●デジタルな知見に加えてビジネスの知見も学ぶ。

デジタルの知見はなるべく多くの技術を学生時代に学ぶことで得られます。自分の専門外でも興味をもって貪欲に勉強して欲しい。ビジネスの知見は学生時代に学ぶのは難しいが,できるだけ様々なことに興味を持ち,財務会計やマーケティング,物流,製造技術,生産管理などの入門書などを読んでおくだけで将来必ず役に立ちます。

●組織,国を超えたコミュニティで活躍する力を備える。

他人を巻き込む力ですが,現在SNSの普及により,個人は世界中と繫がっています。これからは,企業のボーダー,国のボーダーを超えたコミュニティの中でイノベーションが起きてきます。それらのコミュニティの一員として活躍できることがリーダーの素養です。そのためには,一芸に秀でると良いでしょう。特定技術分野に強い。歌がうまい。絵がうまい。スポーツが得意でも良い。コミュニティのなかでアイデンティティを発揮できるようになれると良い。何でも普通にできるというのは何もできないに等しくなるので意識して得意を作って欲しい。次に情報発信力です。情報は発信者の所に集まる。故に自ら有益な情報を発信することが他人を巻き込む力の源泉になります。注意したいのは,他人の誹謗中傷はしないことです。短期的にはSNSで人気を得ても,それは発信者の品位を傷つけ,将来必ず禍根を遺すことになります。ポジティブ情報を発信し,仲間から信頼され,世界中の人と一緒に様々なことに挑戦できる人になってください。

そして就職する企業を選ぶ際には,名前が有名かどうかではなく,新たなことへの挑戦を許容するか。外部への開かれた環境があるか。失敗体験を積めるかなどの企業文化を重視すると良いと思います。

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田中 久也
Hisaya Tanaka
  • 京都情報大学院大学 教授
  • 早稲田大学工学士
  • 元富士通株式会社システムサポート本部長代理
  • 元株式会社FUJITSUユニバーシティ取締役
  • 元独立行政法人情報処理推進機構IT人材育成本部長・理事
  • 日本工学教育協会上級教育士
  • 日本工学教育協会事業企画委員
  • 一般社団法人未踏 理事

上記の肩書・経歴等はアキューム25号発刊当時のものです。